【ラグリパWest】 28分の5 大阪市立大池中学校
今、練習は朝夕の2回。始業前は7時30分から40分ほどだ。
「平たく低いバランスボールの上に乗せてパスをさせたりしています」
坂田は最初に体幹を鍛え、次は実戦系を取り入れる。放課後の2時間ほどは、コンタクト用のバッグを持たせたり、スーツを着させる。朝夕でバランスを考える。
校内のグラウンドは土。縦60メートル、横30メートルほどしかない。しかし、共用はサッカー部のみ、さらに部員は19人(1年以外は2年=7、3年=7)のため、狭さはそれほど感じない。
指導をリードする坂田は28歳。保健・体育教員だ。赴任して4年目になる。
常翔学園では高1で退部する。
「強いところでは通用しませんでした」
その後、指導者の道に転じる。びわこ成蹊スポーツ大時代も含め、母校の城東中や大阪中央ラグビースクールでコーチをつとめた。年齢以上に経験は豊富だ。
野口は31歳。関西創価から朝日大に進学した。今は知的障がいや肢体不自由な生徒たちのための特別支援学級を受け持つ。
「ラグビーが人間的に成長してくれる手助けになってくれればいいと思っています」
坂田より3歳上だが、赴任が1年遅いため、常に年少者を立てる。
坂田はセンター、野口はフランカー出身だ。バックスとフォーワードでつり合いは取れる。坂田は19人の部員たちを評す。
「多少きついことを言っても、きちっとついてきてくれます。仲間意識も持っています」
大池中のある生野区の人口は、市のホームページによると13万人弱。そのうち2万8千人ほどが外国人登録をしている。中心は「在日」と呼ばれる在日韓国朝鮮人だ。日本に帰化した人たちもいる。
校長の山本了照は言う。
「在日の生徒は6~7割くらいです」
大池中の生徒数は234人(1年=60、2年=82、3年=92)だ。
学校では毎週火曜の6時限目を「国際クラブ」としている。いわゆる民族学級だ。50分間、在日の先生から、朝鮮半島の歴史やハングル文字などを学ぶ。坂田は説明する。
「朝鮮の踊りや太鼓、時にはK-POPなんかも登場します」
朝鮮半島に祖を持つ者は運動能力に優れることが多い。古代、陸続きのため、中国、蒙古はもちろん、中央アジア、遠くは欧州にまでその交流は及ぶこともあった。
血が混じれば、才能が発芽する可能性を秘める。サイズ、強さ、速さ…。遺伝子は残る。
そのような背景も含め、大阪朝高との交流は8年目に入った。
全国大会4強2回を誇る高校生たちと初の合同練習は2012年。今年5月3日の大阪朝高フェスティバルにも招かれた。
昨年、大池中のラグビー部からは、李淳弘(り・すのん)が初入学した。李は1年生からフッカーとしてメンバー入り。4年ぶり10回目の全国大会出場に貢献した。
「ウチに来てくれたらいいですね」
37歳の監督・権晶秀(くぉん・じょんす)は希望を口にする。
大阪朝高の新入生は63人。男子23人中、入部者は5人だった。朝鮮語で民族学を学ぶ生徒は少子化、授業料の無償化対象外や北朝鮮との関係などで減り続けている。
「ぼくらの学年は230人いました」
打開策のひとつとして、日本学校からの進学を働きかけている。
大池中の注目度は高い。
共同主将の黒川直行は話す。
「松山先輩も一千くんも『どん』って相手を前に返すタックルができます。すごいです」
尊敬するOBたちのような守りを身につくことができれば、視線はもっと増える。
4月に始まった市の春季大会は、1回戦で旭東中に28-31で敗れた。
大阪市内の中学は勝敗に関係なく、12人制を年間4大会こなす。新人戦、春秋の市内大会、近畿大会予選だ。
次の公式戦は秋までない。坂田と野口の練習を積み上げて、涼しい風の吹くころには、黒とピンクのジャージーを映えさせたい。