コラム 2019.04.24
【コラム】選手ではなく、人。エディーの教え/前編

【コラム】選手ではなく、人。エディーの教え/前編

[ 中川文如 ]



 日本代表を率いた頃、集中力散漫な山田章仁をカフェに呼び出して二人っきりで話し、チームから外し、復活を促したエピソードは有名だ。「カフェで向き合うと、彼は号泣した。そこで終わりにせず、私は彼の試合を見に行き、フォローアップのメッセージを送った。再び合宿に呼んだ時、プレーする準備は万全だった」
 忖度で成り立つ日本社会。「でも、日本人ほど、他者から正直な評価をほしがる人たちはいないのではないかと感じることがある。もちろん、きつい言動の後の気配りが欠かせないのは言うまでもないが」

 学び続けるエディーさん。いま、イングランド代表ヘッドコーチの興味関心は若い世代の指導術に向いている。サッカー界指折りの育成型クラブ、オランダのアヤックスを3月に訪ねたという。完成された選手を集めて高水準の戦術を遂行するビッグクラブではない。 選手教育の老舗にして最先端に活路を求めるのがまたエディーさんらしい。
「時代とともに、指導する選手の気質は変わる。つまり、コーチングそのものが変化を強いられる」

 当世の若者の多くは、物心つく頃から、整えられた環境の中で育つ。ラグビーを志す者なら、いいプレーをすれば自動的に、世間的に評価が高い進路を歩める。おそらくどこからか高価なスパイクも提供される。「能動的に事を起こす必要が、いまの若者にはない。それではダメ。自ら行動できるように導かなければ。ラグビーの試合中、コーチが手取り足取り選手を動かすことなんてできないのだから」

 だから、ミーティングは様変わりした。「30年前なら、コーチが選手の前に立って『今日はこういう練習をする』と言えば終わりだった」。もう、それではコーチ失格なのだと。「選手を4人ずつのグループに分け、ディスカッションしてもらい、出された結論をまとめていく。4人がちょうどいい。互いにアイコンタクトできるからね。そうやって選手を様々なプロセスに関わらせ、自己責任を芽生えさせるんだ」
 ラグビーの指導論は、気がつけば世代論に及んでいた。選手は変わる。コーチも変わる。エディーさんは、進化する。

「コーチとして成功したければ、毎朝、どうすれば昨日より良くなれるか考えてほしい。『自分はいいコーチだ』と断言した時点で成長は止まるのだから。常にベストを。これが難しい。なぜなら、しんどいからだ。だからコーチというのは、あまり多くの人たちに適した役割ではないのかもしれないね」

 紡がれる一言一言に耳を傾けているだけで、体中に刺激があふれる。そして、なんだか身につまされる。
 熱い熱いエディーさんのセッションの話。次回のコラムでも、もう少しつづりたい。

【筆者プロフィール】
中川文如(なかがわ・ふみゆき)
朝日新聞記者。1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップの現地取材などを経て、2018年、ほぼ10年ぶりにラグビー担当に復帰。現在はラグビー担当デスク。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。


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