【コラム】超える春。 齋藤直人[早大主将]
最後、フィジー・ウォリアーズ戦の組み立て。
いますぐフル代表に登用してもおかしくないようなパワーランナーをそろえた相手。海外遠征経験の豊富な齋藤も「いままで対戦した中で1、2を争う強さだった」と振り返った。ただ、42点差の大敗も、後半途中までは競っていた。もし、再戦できたら。齋藤はそこでの勝機を思い描けてもいた。
「映像で見返すと、外にスペースがあった。なのに内側のプレッシャーが厳しくて、外までボールを運べなかった」
運ぶため、SHがやるべきこと。
「SHから一気に外、というのはやっぱり難しい。だから、もっとテンポを上げたい。テンポを上げて相手防御を揺さぶって、空いたスペースをどんどん広げたい」
もちろん、緩急も心がけたい。緩急以上の、緩急を。
「緩急って言うと、言葉が簡単すぎる気がします。FWが崩れたら、いったん整えさせてからというか、むしろリセットさせるくらいまで整えてからテンポを上げる感覚で」
ハイテンポは、さらにハイテンポに。抑揚は、さらに変化に富む。
舞台は上井草に戻る。主将に指名されて、もうすぐ2カ月。
「遠征でずっと離れて、チームになじめていない。キャプテンらしいことは、まだ全然できていない」
苦笑。いやいや、周囲の評は違う。寮生活での自律はさらに強まっているらしい。
春の目標は、こう定めた。
「まずは自分のプレーを高めることが、一番のリーダーシップにつながる。全ての面で昨季の自分を超えていきたい」
インタビューを終えると、こくりと頭を下げ、小走りでウェートトレーニングルームへと戻っていった。「圧倒的なフィットネスを身につけたい。判断の余裕も、フィットネスから生まれるから」とはにかんで。
強みは、研ぎ澄まされる。
引き出しは、増える。
声に、心が宿る。
ハイテンポは、さらにハイテンポに。抑揚は、さらに変化に富む。
大きな飛躍を遂げる準備の時、節目の春だ。
【筆者プロフィール】
中川文如(なかがわ・ふみゆき)
朝日新聞記者。1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップの現地取材などを経て、2018年、ほぼ10年ぶりにラグビー担当に復帰。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。