国内 2019.01.10
【コラム】よき人の花園

【コラム】よき人の花園

[ 藤島 大 ]

 後半開始から交替でベンチへ退いた。「チームは全力を出し切った。ただ個人としては最後までグラウンドに立てなかったことが悔しい」。そんな内容を述べた。38-46の熱帯びる敗戦。あのまま出場していたらどんな駆け引きをしただろうか、と、つい想像してしまう(交替出場の宝田悠介の非凡な突破力にも『こんな才能がリザーブなのか』と驚かされた)。

 東福岡高校について書いたり、解説したりすると、どうしても「才能」という単語を用いてしまう。スクールのラグビーの盛んな福岡という土壌の育んだ最良の個性が途切れずに入学する。他府県から志望する者もいる。古びた言い回しなら「楕円球の俊秀これでもかと集う」。そんな印象を抱く。しかし能力の集合だけで、こんなチームはできない。これだけのクラブも成り立たない。

 大きな学校の大きなクラブには厳しい競争があり、さまざまな背景を抱く少年がひしめく。それは小さな社会である。小社会で鍛えられるのは肉体だけではない。感受性、観察眼、思考を言語化する意思伝達の方法、自省の習慣、日本一をめざす集団でレギュラーとなるために悩み、もがけば、それらはどうしたって磨かれる。

 今大会の部員数は実に121人。3年だけで42人。東福岡で観客席の応援組に回るのなら、ほかの学校に進んで、花園に届かなくとも、先発や控えとして活躍したほうがよい。これはこれで間違いではない見解だ。しかし常に頂点を目標にすえる集団に身を置き、簡単に光の当たらぬ自分を見つめるのも悪いとは限らない。こちらはこちらで人間の力を引き出すのである。焦点は「自分がどうしたいかを自分で決める」だろう。

「損得ではなく、いいのか悪いのか」。激しいポジション争いがあるから「損得」に傾きそうなのに、踏みとどまる。きっと将来に生きる。「損するやつはバカ。非合法でなければ何をしてもよし」。そんな生き方が真ん中にきたら世の中はささくれだつ。いま、すでに危ない。

 吉村紘に幸あれ。取材や解説のローテーションの都合により凝視できた順不同、損得抜きの優れた勇士たち、旭川龍谷の湯口龍雅、名護の與那嶺樹、玉島の遠山裕也、茗溪学園の井上雄太、八幡工業の五十野海大に幸あれ。U18合同チーム西軍の強靭なランナー、石川留依(美里)、開始3分強に無念の負傷交替も存在感あり、伊藤武蔵(東予)、まるでマット・トッドのような川上泰生(東稜)、同東軍の魂の接点、松宮龍太郎(弘前学院聖愛)、鋭利なタックル、曽我太智(玉川学園)、あの場の全員に、小人数の哀歓を知るゆえの大いなる幸が降り注ぎますよう。

【筆者プロフィール】藤島 大( ふじしま・だい )
スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。スポーツニッポン新聞社を経て、'92年に独立。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。著書に『ラグビーの情景』『ラグビー大魂』(ベースボール・マガジン社)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』(鉄筆文庫)など。ラグビーマガジンや週刊現代に連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球に見る夢』放送中。J SPORTSのラグビー中継解説者も務める。近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ) 。

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