国内
				2018.12.04
			
			
			
			
			ビッグマンやファストマン。2018 年度第4回TIDキャンプ、京都で開催。
				身体能力の高い選手たちが揃う今回のキャンプ。秋田工でラグビーを始めたPR高橋璃玖も、
そのひとり。田舎の山の出身で、野球や陸上競技に取り組んできており、
スキーも(クロスカントリー)。ボールを持ってよく走り、よくタックルする。
 なんというメンバーだ。スカウト関係者ならずとも見てみたい原石たちだ。
 青森山田(青森)には、189?126?の巨大プロップがいた。浪速高(大阪)からは191?のロックがやってくる。今秋に山口県予選の1回戦で破れた宇部高にも好素材がいた。八戸西(青森)のバックス選手は、立ち幅跳びが280?で全体トップだ。
 みな全国的には無名の高校生。世代別代表の経験者は一人もいない。
 スキルフルな即戦力ではないかもしれない。しかし、そのサイズや能力には、大きな可能性が秘められている――。
 そんな“大器晩成型”の有望選手22名を全国から集め、3日間のキャンプを行う「2018 年度第4回 『TIDキャンプ』」、が12月22日(土)からの3日間、京都・京田辺の同志社大学グラウンドで開催される。対象は17歳で、U17日本代表候補以上の経歴の持ち主、花園出場校の選手は対象外となっている。選抜要件はただ一つ、サイズやスピードといった“一芸”を有していることだ。
 開催に尽力したのは、高体連ラグビー専門部副部長・天野寛之さん。大きな期待を寄せている。 
「全国(大会)に出ていないような学校の選手ばかりです。全国には出ていなくても、一芸を持った子たちはいるということで、とても期待しています。代表のプログラムも教えられます。非常に良いことだと思っています」(天野氏)
 そして今キャンプの発起人は、元日本代表でラグビー解説者としてもお馴染み、日本ラグビー協会リソースコーチの野澤武史氏だ。
「『身体の大きい選手だけを集めてやってみよう』と本格的に動き出したのが、今年の4月くらいです。関係者の中では「ビッグマン&ファストマン・キャンプ」と呼んで準備してきました。できるだけ多くの方々に、彼らを見てほしいと思っています」(野澤氏)
 野澤氏は協会で、若手選手の強化・発掘が専門。今回、全国の指導者に協力を仰ぎながら、全国に散らばる原石をリスト化。構想2年で初開催に漕ぎ着けた。
「プロップでは体重115キロ以上、ロックは身長190センチ、バックスは立ち幅跳びが280センチ以上か、40メートル走が5.0秒に、それぞれ準ずる選手です」
 構想の出発点は、セレクターとしての苦い記憶だ。
 野澤氏は毎年5月からの2か月半、全国9ブロック(北海道、東北、関東、東海、北信越、近畿、中国、四国、九州)を回り、トライアウト合宿を通し、タレント発掘に従事してきた。
 全国9ブロックで選抜された有望選手は、ブロック代表として夏の「コベルコカップ」へ参加。さらに選抜されると、その先のU17代表へ。そしてU19(高校日本代表)、U20代表へと続いていく。
 そんな中で、セレクターとしての痛恨事を何度も経験したのだという。
「近年はコベルコカップに価値が出てきて、戦略が重視されるようになってきました」
 だから各ブロック代表では、どうしても即戦力が必要になる。監督を務める先生方にもプレッシャーがかかる。煌めくのは、完成度の高い選手たちだ。
 となると、一芸突出型は、どうしても見劣りしてしまう。
 未完成ゆえに重宝はされず、秋を迎える。たとえば花園予選で早々に敗退する。やがてラグビーの道から逸れていく……。
「全国の先生方と話をしていて『あの選手どうなりました?』と聞いたら、『実は就職したんだよね』と。嘘でしょう……と。そういうことをこの数年間、垣間見てきました」
 ラグビーでの将来像が描けないままフェードアウトした子。家庭の事情により就職せざるをえなかった子。
 もしもそうした未完の大器たちが、大学ラグビー関係者と幸運な出会いを果たしていたら? 
 モチベーションが上がり、ラグビーに懸けてみようと大学ラグビーへ進んだかもしれない。特待生の枠をもらえていたかもしれない。セレクターとして悔しかった。
 そんな無念を経験し、各方面の手助けがあってようやく実現するのが今キャンプだ。同期間に開催されるU19代表候補キャンプとの同時開催、抱き合わせで実現した。
 参加者の7割は野澤氏が直接目にした選手、3割は信頼する先生方からの推薦だ。
「一芸に秀でた選手は、しばしば円の“右下”の部分のような成長曲線を描きます。高校の段階では低空で、ラグビー経験の長い選手や、180センチ、90キロという“高校ラガー最強体型”の子(笑)には敵いません。しかし大学、トップリーグと進めば、洗練されたコーチングによって、しばしば“先行者優位”を超える場合がある。でも、その低空の段階で評価されてしまって、ラグビーを辞めてしまう子たちがいるんです」
 全国の指導者が選んだ未完の大器たちを、日本全国のセレクターなど多くの人に見てほしい。
「そういう選手たちを、まずは土俵に上げたい。それからは彼ら次第ですが、所属チームの先生と連携を取りながら評価・追跡していくこともやっていきたい。彼らにも『見ているよ』と伝えることで変わっていくと思います。それが日本ラグビーの発展につながれば」
 サンウルブズ、日本代表でコーチを務めた、田邉淳もスタッフに加わる。
 きっと荒削りで未完成だ。しかし原石だからこそワクワクする。京都・京田辺での3日間から、一体どんなストーリーが生まれるのだろう。
(文/多羅正崇)
【2018年度第4回「TIDキャンプ」参加メンバー】
(ポジション/氏名/所属/学年/身長・体重)
PR	鈴木大地	日立第一高校2年	(180/110)
PR	佐藤凛太朗	青森工業高校2年	(186/110)
PR	木村駿介	青森山田高校2年	(189/126)
PR	末永天	仙台高校2年	(180/111)
PR	上猶湧介	鹿児島工業高校2年	(182/117)
PR	高橋璃玖	秋田工業高校2年	(174/108)
PR	田中雄大	長崎南山高校2年	(185/118)
LO	楠本勝大	浪速高校2年	(191/86)
LO	清水瞭喜	遠軽高校2年	(187/88)
LO	比嘉一葉	駒澤大学高校2年	(189/98)
LO	矢野裕二郎	関東学院六浦高校2年	(191/81)
LO	神田康生	鹿児島工業高校2年	(190/78)
LO	笠掛優	常総学院高校2年	(191/98)
LO	松本光貴	明治大学付属中野八王子高校2年	(187/93)
CTB	日野坪英亮	静岡高校1年	(178/74)
WTB	川久保彪我	長崎北高校2年	(165/70)
WTB	柴田幸之介	作新学院高校2年	(182/65)
WTB	島田晃大	八戸西高校2年	(172/68)
WTB/FB	小林宗也	横須賀高校2年	(178/78)
FB	坂根涼真	寝屋川高校2年	(182/78)
FB	中山覚富	宇部高校2年	(171/70)
FB	山本晟人	鶴来高校2年	(181/74)
			



