ラグリパコラム 2018.11.22

クボタの頼れるおねえさん。 主務・林優子

クボタの頼れるおねえさん。 主務・林優子
チームを支える林優子さん。(撮影/榎本芳夫)
 林優子はクボタスピアーズの主務である。
 部員の評価は高い。井上大介は言う。
「漏れがないですね」
 日本代表キャップ2を持つ、29歳のスクラムハーフは完璧さを伝える。
 クボタは11月17日、キンチョウスタジアムで神戸製鋼と戦い、24−22で勝利する。
 井上のキックパスからのトライとその後のゴールキックで試合が決まる。
 オレンジのジャージーは、今季公式戦7勝1分だった深紅に初めて土をつけた。
 林の目じりはいつも以上に下がる。
「素直にうれしいです。勝ちに勝るものはありません」
 白星を挙げた大阪は、会社の本社があり、学生時代を過ごした場所でもある。
 林の仕事は多岐にわたる。
「主に協会や他のチームとの応対や調整ですね。メンバー登録なんかもやります。遠征や合宿があればその準備。切符や宿舎の手配ですね。荷物の用意や確認もします」
 早ければ朝は7時前に千葉・船橋にあるグラウンドに行く。仕事が終わるのは夜8時を過ぎることも多い。
 試合中はベンチの後ろでシンビンや出血などのタイム計測を含めた雑用を引き受ける。決して前には出ない。しかし、さりげなくそばにいる。
 クボタに所属して6年目。振り出しはヤマハ発動機だった。静岡・磐田に9年。そして、トヨタ自動車に移る。愛知・豊田には4年。積み重ねは19年になる。
「ご縁と運とタイミングだけです」
 今のチームは居心地がいい。
「みんなフレンドリーできさくです。神経質な人はいません。私が失敗しても、あっけらかーんとしてるんです。鈍感なのか、ポジティブなのかわかりません。だけど、私は救われます」
 ある公式戦がサッカーのJリーグと重なった。大混雑でチームバスがグラウンドに横づけできない。選手たちには距離を歩かせる。怒ると思いきや反応は真逆だった。
「いやー、来る途中にJリーガーに間違えられて、楽しかったですよ」
 ミーティング会場を自分の中で決めているよりも狭いサイズでしか押さえられなかった。落ち込んでいると、ヘッドコーチ(監督)のフラン・ルディケは笑った。
「今日は一体感のあるミーティングができてよかったよ」
 結局、林の言う「失敗」とは、一般的には取るに足らないものなのである。
 林が楕円球に関わりを持つようになったのは大阪体育大に入学してから。京都教育大付高ではバスケットボール部だった。
「高校時代は自分でテーピングを巻かないといけないような環境でした。だから、自然とケガへの興味がわきました。ラグビーならそれが多いだろう、と思いました」
 治療やリハビリに関わる学生トレーナーを志望して、ラグビー部の門をたたいた。
 部にはこれまで女子がいなかった。適性を見極めるため、監督の坂田好弘(現関西ラグビー協会会長)は仮入部期間を設ける。
 そのうち、坂田の口からは賛辞がもれるようになる。コーチだった中井俊行(現部長、准教授)はその言葉を覚えている。
「あの子はすごいよ。俺が話をしそうなところに先回りしたり、ブレイクの時間を見計らって水を置いている」
 林は坂田の行動や練習内容を把握して、選手用の給水ボトルをセットする。常に先を読み、対象者たちを練習のみに集中させる。
 そして、部史上初の女子部員になった。
 林の同期は近鉄前監督だった坪井章だ。主将だった元フランカーも賞讃を惜しまない。
「たいしたもんですわ。それまでは女人禁制で、僕らも最初は『無理やろ』と思っていました。でも、仕事ぶりと人間性で周囲を納得させた。そこらの監督よりも、よっぽどラグビーに情熱を持っています」
 林はラグビー一辺倒ではない。女性的な優しさも持っている。
「僕がつきあって、結婚までいったのも彼女のお蔭ですわ。嫁はサッカー部の選手でね、お互いが気になりだしたころ、彼女が間に入って、話をまとめてくれました」
 恋のキューピットの存在は、坪井に配偶者と8歳と4歳の二女をもたらせた。今でも家族ぐるみの付き合いは続いている。
 大学卒業後は、在学中から熱心に誘ってくれたヤマハ発動機で職を得る。当時は大学の先輩として大村武則(現日本代表総務)らが在籍していた。最初はトレーナー業をこなしていたが、処理能力や人間性を買われチーム運営に軸足を置くようになる。
「この仕事って、何もいらないじゃないですか。トレーナーなら免許、通訳なら英語がいりますよね。でもこの仕事は選手をあがった社員でもできるんですよね」
 だからこそ、林は全力を尽くす。パーフェクトを求める。これまで19年は契約社員(業務委託)として過ごしてきた。1年で解雇の可能性もある。プロ選手と立場は同じだ。
 真剣勝負の日々を柔らかな笑顔で乗り越える先に目標はある。
「日本一です。マネジャーを続けさせてもらえるうちは、私もチームと一緒に日本一を狙っていきます」
 林の円滑な運営もあって、昨年度11位のクボタは、12月1日から始まる順位決定トーナメントで8強のグループに入った。3つ勝てば創部41年目で初めてリーグ制覇の栄冠を手にできる。
 渾身のサポートはこれからが本番になる。
(文:鎮 勝也)

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