国内 2018.10.12

早大に入る前から、早大が負けるのが悔しかった。丸尾崇真、自力で日本一へ。

早大に入る前から、早大が負けるのが悔しかった。丸尾崇真、自力で日本一へ。
関東大学対抗戦A開幕節の筑波大戦で奮闘する早稲田大のNO8丸尾崇真(撮影:長岡洋幸)
 本当につらいのは自分ではないのだろうが、自分がつらいのも間違いない。早大ラグビー部2年の丸尾崇真は、入学する前からかような感覚を味わっている。
 早稲田実業学校の初等部時代、ふたつ上の兄の隆大郎(早大4年)に付いて川崎ラグビースクールへ訪問。そこで楕円球と出会った。
 休みの日には、東京の秩父宮ラグビー場で試合を観た。
 当時の早大は、後の日本代表の軸である五郎丸歩らを擁し常に優勝争いをしていた。少年は、赤と黒のジャージィをまとって勝ちまくる姿に憧れた。
 ところが2008年度に大学日本一となってから、早大は徐々に覇権から遠ざかる。最後に大学選手権の決勝に進んだのが2013年度。崇真青年が中等部の3年になった頃だ。
 好きなチームが試合に負ける様子を見て、どう感じていたのか。本人が大学生になってから言った。
「うーん、やっぱり、悔しいですね。僕は見るしかできなかったですけど、悔しかったです」
 この時点でファンではなく当事者だった。高等部を経て大学の体育会の門を叩いたのは、自然な流れだった。
「僕が見ていたワセダラグビーを、自分たちが体現しようと」
 今年10月7日、栃木・足利運動公園陸上競技場。新体制で臨むチームは、加盟する関東大学対抗戦Aの3戦目で青学大に123−0と大勝した。ここまで負けなしである。
 丸尾も定位置としつつあるNO8に入り躍動。身長183センチ、体重99キロの戦士は動きを止めない。「パスが浮いている間に(相手との間合いを)詰められるのはわかっていた」と鋭い出足の防御を重ね、豊かなスピードを生かしてトライも披露した。
「目標があって、そこへ行くためには変なことはできない。これまでの試合よりも質を上げていこうと臨みました。アタックでもディフェンスでもチームを勢いづける。1対1では絶対に負けない(と意識する)」
 ここでの「目標」とは、小学4年の頃に観た日本一を自力で達成することだ。ライバルの一角で9連覇中の帝京大との試合は、対抗戦期間中の11月4日にも秩父宮で組まれている。チームは絶対王者に夏合宿中の練習試合で28−14と快勝も、丸尾は気を引き締める。
「チャレンジャーでないとだめだと思うので、夏に勝ったことは忘れて、新たな気持ちで挑もうと思います。毎回、課題は出ているので、それをひとつずつ潰していって、少しずつ成長するしかない」
 新体制で臨む2年目の今季は、チームと自分自身の主体性が高まったという。
「目指せと言われて目指すのではなく、自分たちで本当に日本一になりたいと思って練習しています。今年は選手同士で話し合う時間、いい意味での自由が増えました。練習中のショートミーティングでも、練習後でも、試合前でも、もっとこうしよう、こうしようと話しています」
 ただ応援するしかできなかった頃から当事者として受け止めてきたチームの勝敗に、いまは正真正銘、自分に課された問題として向き合える。幸せの只中で必死に生きる。
(文:向 風見也)

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