国内 2018.09.07

サントリー新人・堀越康介は、なぜ「センス」がいいと言われるのか。

サントリー新人・堀越康介は、なぜ「センス」がいいと言われるのか。
開幕戦でボールを手に突破するサントリーの堀越康介(撮影:早浪章弘)
 ラグビーの大学選手権で9連覇を達成した帝京大の主将、堀越康介は、今季からサントリーに加入。国内最高峰のトップリーグで3季連続での優勝を目指している。ポジションを背番号2のHOから背番号1の左PRにコンバートし、9月1日の開幕節にも先発出場した。
「サントリーが準備してきたものが全部出し切れたかと言えばそうではないです。ただ、個人としては開幕戦のあの緊張感のなかで、あの強度のラグビーができたのはいい経験だったと思います」
 トップリーグデビュー戦となったこの日、大学ラグビー界を沸かせた躊躇なき突進で存在感を示した。力自慢が揃うトヨタ自動車の守備網を前に、低い姿勢でパスコースへ駆け込む。身長175センチ、体重100キロと決して大柄ではないが、ほぼ確実に前進する。
 サントリーの攻撃システム上、接点の周りには複数のレシーバーが揃う。誰が球を持つかは、パスの出し手の判断などに左右される。その出し手となるSHの流大主将は、堀越の力強さを信頼する。
「単純に身体が強い。相手のディフェンスが揃っているところでも必ず(接点から)クリーンにボールを出してくれるので、堀越を選択して投げることもあります。また彼はラグビーセンスもあるんで、ちょっと気の利くようなこともできる。コミュニケーションもうまい。やりやすいです」
 リーダーの言う「身体の強さとラグビーセンス」が詰まっていたのは、0−0で迎えた前半22分のプレーだ。
 サントリーが連続攻撃を重ねていた敵陣ゴール前中央付近。接点からやや離れた位置から堀越が球を呼び込む。目の前に複数の防御役が並ぶなか、流主将のパスを受け取るや鋭くカットイン。この動きで真正面のタックラーの手からわずかに逃れ、勢いを保って右側のポールへ直進した。
 最後は相手を引きずりながらトライを決めただけに「身体の強さ」も目立ったが、ボールを受け取る瞬間のモーション、さらに接点からやや距離を取ったようなポジショニングでは「センス」も感じさせた。
 直後のゴール成功もあってスコアを7−0としたこのシーンを、流は「あそこでトライが取れるとは思わなかったです。次の次くらいで(トライを決めたい)と想像していたところで、(フィニッシュまで)行ってくれた」と脱帽。経験上、スコアチャンスが巡ってくるのは、堀越の突進による接点の「次の次」あたりだと読んでいたようだ。新人の機転と突進力が、予測をいい意味で裏切った。
 もっとも当の本人は「そこが強みなんで。はい」と淡々としている。
「絶対にコンタクトで負けないということ(を意識している)。特にあそこのゴール前ではパワーでやっていかなきゃいけない。もらう前のタイミング、スピードは(普段から)大さんと事前にコミュニケーションを取っています。あそこでミスをしたら相手を生き返らせることになりますし、細かいところを意識してやっています」
 周りからの「ラグビーセンスが抜群」という評価に対しても、「事前のコミュニケーションや準備をしっかりすることで迷いなくやれているのが、よく映っているのだと思います」。流らパッサーの要求や相手の守備傾向などを事前に把握し、それらの内容を本番での位置取りや動きに反映。その結果を「センス」と言ってもらえているのでは、と捉えているようだ。
「ギッツ、煕さん(SOを務めるマット・ギタウ、田村煕)ともコミュニケーションを取っていますし、それぞれの『こうして欲しい』も知っている。気を利かせられるプレーヤーになりたいです」
 チームは昨季4強のトヨタ自動車を27−25で下したが、勝負所での落球を重ねていた。だから堀越は「準備したものを全部出し切れたかと言えばそうではない」と、伸びしろの存在も強調。何より先制トライのシーンにも、「流さんからパスをもらう前に仕掛けていたら、もっと簡単にトライができた」と悔いが残っているようだった。
 コンバートしたてとあって、最前列で組むスクラムでは背番号1、2の役割の違いに適応しようとする日々。自らにハードルを課す。
「HOもやっていたので、スクラムリーダーとなるHOの意見を聞きながら柔軟に対応できる1番になっていきたいです」
 沢木敬介監督に「1番でスクラムが強い。で、ラグビーセンスは見ての通り抜群。1番で日本代表になるんじゃないですか、将来」と太鼓判を押されるなか、自らも2017年春以来の日本代表復帰を視野に入れる。2019年のワールドカップ日本大会出場は、まだあきらめていない。
 いまのところワールドカップに向けたトレーニングスコッドからは外れているが、「最初の(トップリーグ)3試合を経て(追加で)呼ぶかもしれないという話もある」。与えられた出場機会で成長を示し、チャンスをつかみたい。
「可能性は低いかもしれないですけど、呼ばれるように頑張っていきたいです。1、2番ともにできることは強みになると思います」
 7日、東京・秩父宮ラグビー場での第2節(対 NTTコム)でも背番号1をつける。
(文:向 風見也)

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