国内 2018.09.02

「帰る場所」への道の確かさ。リコーがホンダを上回ったもの

「帰る場所」への道の確かさ。リコーがホンダを上回ったもの
後半出場、ホンダの新戦力クリス・クリンドラニ。中央右はリコーに加わったLOジェイコブ・スキーン(撮影:?塩 隆)
「最後は、勝利への貪欲さで我々が上回ったと思います」
勝ったリコーの濱野大輔主将が、自チームを戒めるように試合を総括した。それ以外にももっともっといいところを見せられるはずなのに、試合でそれを出せないもどかしさ。
リコー39-34ホンダ。
9月1日・秩父宮ラグビー場でのトップリーグ初戦は、両チームにとって歯がゆさ、悔しさが残るゲームになった。ホンダの先制トライに始まった点の取り合いは、リードが7度入れ替わる接戦。しかし、全体にミスが多く、落ち着かない展開となってしまった。
ホンダの小林亮太主将も悔しさをかみ殺して試合を振り返る。
「スコアのあと、流れをつかんで乗っていくべきところで、セットプレーでリズムを崩す。それが勝敗につながったと思う。具体的には、キックオフでボールを失った場面。スクラムでは終始プレッシャーがかかっていた」
近年、ディフェンスとセットプレーを着実に構築して、上位を狙う文化を作ってきたリコー。4度目のトップリーグ昇格に、覚悟を決めた2年越しの強化で満を持して臨んだホンダ。ともに勝つ準備を整え、特長も見せた両チームが、この日はいくつかの障壁に遭って、それぞれに不完全燃焼を起こしてしまった。
障壁の一つは、特に前半に強く降り続いた雨と一部水も溜まったピッチ。パントキャッチ、ハンドリング、地面のグリップ、すべてが落ち着かない中でスムーズにプレーをするのは難しかった。多くのプレーで、少しずつタイミングや位置がずれる。
もう一つは、新戦力、特に外国出身選手が適応しきっていなかったこと。今年からいわゆる外国人選手は最多6人までメンバー入りが可能。交代を含め、リコーは3人、ホンダは5人の、カタカナ氏名の新・戦力がプレーした。
リコーのSHとして、FWとBKのつなぎ役となる山本昌太は、個々の外国出身選手たちのプレーやプロとしての態度を認める。
「彼らはみんな、仕事をしっかりやっている。積極的に意見も出してくるし、チームに刺激を与えてくれる」
ただ、チームの一部として機能するのにはもう少しだけ時間が要る選手もいるだろう。合流して2週間、この日のポジションは合流後初めて、というケースもあった。彼ら「新加入かつ主力」が昨年までよりも多くジャージーを着る中では、長くチームに所属する日本選手たちとの言葉の問題も横たわる。
特にリコーは、終始、細かいミスにたびたび足を絡め取られた。
前半、0−5と先制を許した後は連続3トライ。このうち二つをラインアウトからのモールであっさりと取った。両軍ミスが多い中、数多く組まれたスクラムでは、はっきりと優位に立った(前半はスクラムから4つの相手反則を引き出した)。この圧倒のイメージを、上手に扱いたかった。リコーSH山本は、敵陣に行くまでのプロセスに意思統一が欠けていたと言う。
「序盤のトライなどで、『ゴール前まで行けば、点は取れる』手応えはみんなが持てた。そこがはっきりしていたのでかえって、『どうやって敵陣にいくか』の選択やプレーの精度がばらついてしまった」
しっかり蹴るべき時のキック位置。ボールを持って攻めるべき時のサポート。細かな確認や声かけ。攻め急ぎ、つい先に目がいってしまったのかもしれない。アタックのちぐはぐさは、持ち味のはずのディフェンスにも響いた。
「タックルが高すぎました。リコーはチョップタックルチーム。きょうは上にいく場面が多過ぎた」(リコー神鳥裕之GM兼監督)
力を出し切れないもどかしさの中、リコーがシーソーゲームを制し、この日スコア源としたのは、最後はセットプレー、特にスクラムの圧力だった。
後半15分、29-26と勝ち越したトライは、相手ボールのスクラムで得たペナルティから。敵陣に踏み込んでラインアウトモールを押し切った。その後逆転されながら、後半37分に決勝トライとなったのは、相手ゴール前中央のスクラムからのムーブ。選手たち自らが、相手のディフェンスを分析して作った「穴」だった。スクラムで確実にプレッシャーをかけてトライをお膳立てし(G成功)、8点差をとして勝負をほぼ手中にした。
「戦いながら、これはリコーらしくないって選手が感じているってことは」とリコーの指揮官・神鳥氏。
「リコーらしいラグビーが何か、ということが確立しつつある、その裏返しでもあります。それも一つの成長。次に向けてしっかり修正をしたい」
その意味では、こうありたい! というイメージの片鱗をより多く見せたのはホンダだろう。おもしろいようにつながるオフロードパス。NO8マパカイトロ、WTBレメキ ロマノ ラヴァ、FBエイダン・トウアらに新加入のクリンドラニたちの爆発力が加わって、FW周辺のボールキャリーと、タッチライン際の突破は、勢いがつくとなかなか止めづらい。燃える副将WTB生方(うぶかた)信孝のワークレートも一見の価値ありだ。
リコーは次戦、手負いの東芝との戦いに警戒を強め、自分たちの強みをいつでも引き出せるよう、コミュニケーション力に磨きをかける。ホンダも、チームが最後により所とする場所に確信は得た。今季トップリーグは短期決戦。各チームの、試合ごとの切り換え、修正の力にも注目だ。(取材:成見宏樹)

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