コラム 2018.08.29

次世代にラグビーをつなげていく。 愛媛・愛光学園

次世代にラグビーをつなげていく。 愛媛・愛光学園
灘中高との定期戦で神戸にやってきた愛光中・高のメンバー。
前列左から3人目が主将のSO多武寛太君、同右から2人目がPR安岡直哉君。
 愛光学園は中高一貫を軸としている。
 愛媛の松山に学校はある。温暖でオレンジに輝くみかんを産する土地である。
 歴史ある私立進学校として名は通る。
 キリスト教カトリックのドミニコ会が創立したのは1953年(昭和28)。65年の流れの中で、男子校から共学に変わる。
 2018年は、東京大に13人、医学部に102人の合格者を出した。
 その中学校、高校にもラグビー部はある。ジャージーは深紅。左胸に「AIKO」の黒字が入る。部員数は中学生8、高校生19。中高を統括する部長は45歳の和田誠だ。
「私の使命は、お世話になった部を存続させることです。恥ずかしながら、当時の勉強の思い出はありません。でも、放課後、グラウンドでラグビーボールを持ってぶつかっていった記憶は残っています」
 和田は中高でSHだった。神戸大ではサークルでプレーを続ける。卒業後、社会科教員として母校に帰った。
 監督は高校=寺崎仁樹、中学=杉崎裕治。ともに社会科教員であり、和田を含め3人でチーム運営をしている。
 中学の創部は1980年。その3年生が上がった翌年に高校に部が作られた。中学に楕円球が入ってから38年が過ぎる。
 主なOBには、2011年10月、リビアで取材中に他界した野村能久(テレビ朝日)がいる。173センチの小柄なFLは、早稲田大の4年時に公式戦出場を果たした。
 中学は1988年度の関西大会で決勝に進出している。この時は昭和天皇の崩御で、決勝は行われず、天理と両校優勝になった。
 高校の全国大会出場はない。県内には山本巌、向井昭吾と2人の日本代表監督を輩出し、最多44回の出場歴を持つ新田がある。さらに、ここ2年連続で花園切符を手にしている松山聖陵。公立では北条や三島も手強い。
 愛光は勉強が学校生活の中心である。
 学年で差はあるが、高校生の三分の一、約80人は寮生。そのため、平日の夜は、寮で約4時間の自習が義務付けられている。
 部活は午後6時で終了。時間割の多い日は1時間程度しか練習できない。さらに、中学に部活の週休2日制が導入されたため、活動日は5と少なくなった。
「勝つことは正直、難しいです」
 和田は視線を落とす。
 昨年の全国大会予選、年が明けた1月の新人戦はどちらも1回戦敗退。4月の四国大会予選は棄権する。規約で新1年生の出場が認められず、新3年が引退したため、15人が集まらなかった。6月、10人制の県総体は、8校が進んだ決勝トーナメント初戦で松山聖陵に0−60で敗れた。
「でも、その中で考えて、勝てるポイントを探してくる。そうならないまでも、トライを獲って爪痕を残す。そういうことをしてくれれば…。だから、部員たちにはあんまり、あれせい、これせい、とは言っていません」
 現状を踏まえて、和田は勝ち負けよりも自主性の涵養(かんよう)にウェートを置く。自らの力で眼前を切り開く訓練が、社会に出た時に役立つとわかっているからだ。
 NO8の安岡直哉は高1だ。
 分析に熱中している。高知出身の寮生なので、休日にはネットカフェなどで映像を見る。スーパーラグビーや、時には地元の高校の試合も参考にして、サインプレーなどを学ぶ。
「クルセイダーズのように、ダブルラインを使ったパスプレーができないか考え中です」
 和田の願う自主性はここに現れている。
 安岡は183センチ、120キロとチーム1の大男だ。近鉄ライナーズの「サイブー」ことPR才田修二に似る。笑うと目がなくなる。
「ずーっとラグビーのことを考えています」
 一時はラグビー強豪校への転校を模索した。
「それは親にガチで止められました」
 中学から愛光。中高でラグビー部だった6つ上の兄・達也の後を追った。兄と同じ医学部進学を目指している。
 主将は高2のSO多武(たぶ)寛太だ。
 福岡・北九州の帆柱ヤングラガーズ出身。小6の時には九州大会優勝経験もある。
「一生、ラグビーと関わっていきたいと思い、プロになる夢も持ちました。しかし、引退後の生活を考えたら厳しいかな、と」
 安岡と同じく、目標を医学部への入学に定めている。
 多武は愛光で唯一、U17愛媛代表のスコッドに名を連ねる。
「もし、国体の愛媛選抜に選ばれたら、大会のある来年10月までラグビーを続けます」
 2年前まで、高校では3年に進級する1月の新人戦で引退するのがきまりだった。今、そのタイミングは本人に任せられている。
 和田は説明する。
「在学中のクラブ活動も、入試の評価対象になってきたためです。これまでのペーパー一発から、面接などを含めて受験生の人物を見るようになってきました。」
 8月22日には、1泊2日で同じ進学校である兵庫の灘中高を訪れ、7回目の定期戦を戦った。中学は人数が足りず、合同で地元の甲南中と対戦。12人制の高校は敗れた。
 夜の懇親会では、安岡が腕相撲に勝ち、ひとりでリベンジをやってのける。
「年一回、同じ学校とゲームをして力を試すことができるのは、ありがたいですね」
 和田は感謝を口にする。
 母校の名誉を守った安岡は言う。
「ラグビーはめちゃくちゃ楽しいです。チームスポーツで、ひとりが欠けてもいけません。その仲間たちから必要とされているところがいいんです」
 愛光には愛光のラグビーがある。勉強との両立を果たし、人生という大海に漕ぎ出ていく。これもまたひとつの形である。
 ところで、安岡君、夜の自習時間の居眠りはほどほどに。疲れているのはわかりますが、格好良さが割り引かれますよ。
(文:鎮 勝也)

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