国内 2018.08.16

「助かった」→「逆転負け」の深層。早大、大東大に屈するも防御に手ごたえ。

「助かった」→「逆転負け」の深層。早大、大東大に屈するも防御に手ごたえ。
大東大CTBシオペ ロロ・タヴォにタックルする早大のSH齋藤直人(上)とNO8丸尾崇真
(撮影:福島宏治)
 8月15日、長野・早大菅平グラウンド。昨季の大学選手権で3回戦敗退の早大ラグビー部が、同4強の大東大と練習試合をおこなっていた。今季は創部100周年を迎え、2008年度以来16回目となる大学選手権優勝を目指している。
 味わい深いシーンが、あった。早大が17−14と3点リードで迎えた後半38分ごろ。自陣22メートルエリア中央で大東大ボールスクラムを与える。逆転負けのピンチである。
 ここで動いたのは齋藤直人。今春はサントリーの練習や日本代表予備軍たるナショナル・デベロップメント・スコッドなどに参加していたSHだ。この午後好ジャッカルで光ったアウトサイドCTBの桑山淳生のもとへ歩み寄る。スクラムが解けた後の防御時のマークの受け渡しについて、臨時で話し合いが必要と思ったようだ。
 桑山淳の立っていた右サイド(早大陣営から見て)は、早大の防御が3人なのに対して大東大の攻撃が4人。数的不利を埋めるには、スクラム脇にいる齋藤がスライドして防御網に回らねばならなかった。ところがこの午後はスクラムで劣勢。予定よりも長くスクラムの周りにとどまり、突進してくる相手をチェックしなくてはいけなそう。その事情を桑山淳に伝え、次善策を考えたかった。
「これも(スクラムの位置が)中盤くらいなら、(予定より長く3人で)待ってくれれば僕が追いかけるということができたんですが、(突破を許せば即失点となりうる)ゴール前だったのでどうしようかと」
 結論が出ないまま、試合再開の時を迎える。「(桑山淳は相手との間合いを)詰めると言っていたんですが、(ロングパスでその)頭上を越されたら(ノーマークの相手がトライしやすくなる)」。結局、大東大が桑山淳のサイドを攻めなかったことで、助かった。
 もちろんチャンスを迎えた大東大は集中力を高めていて、NO8のアマト・ファカタヴァ、LOのタラウ・ファカタヴァが順に突進してゴール前まで攻め込んでいた。もっともインゴール手前で、齋藤が接点で身体を差し込む。球に絡む。見立てによっては、相手のノット・リリース・ザ・ボール(寝たままボールを手放さない反則)を誘えそうではあった。
 齋藤は、最近の海外のゲームやSNS上のラグビーに関する投稿を見て「最近、SHもジャッカル(接点で相手の球に絡むプレー)が求められる」と実感していたようだ。
「早大のシステム的にも(接点の)近いところにいてジャッカルを狙いやすい。そういうところでもハードワークしようかなと」
 早大は結局、自陣ゴール前右中間で再び大東大にスクラムを与えてラックを連取される。その間、齋藤もハードな球への絡みを披露したものの、相手FLの湯川純平副将にトライを与えた。17−21。ノーサイド。
 夏から防御に手を付けた。相良南海夫新監督のもと、「ムービング」というスローガンを立てる。タックルした後の素早い起き上がり、プレーとプレーの合間の献身的な動き、大外からの声掛けによる役割分担の徹底に注力する。
 その成果はこの日のゲームでも表れ、タックルされながら球をつなぎたい大東大はミスを連発。だから勝ったHOの平田快笙主将も、建設的なニュアンスながら反省点を口にした。
「(球を受け渡す際)もらい手がしっかりと(パスを欲しい旨を)しゃべらないと、放り手が迷っちゃう。大声で、うるさいぐらいにやっていけば(精度が)変わる。明日からそうしていきたいです」
 だから早大は、結果こそ出なかったものの手応えを感じられたようにも映る。この伝統校を今季から率いる相良監督は、このように述懐した。
「スコアでは負けましたが、我慢はできたかなと思います」
 8月6日から菅平入りの早大は、19日にサニアパークで帝京大と、24日には菅平早大グラウンドで東海大とそれぞれ練習試合を重ね、25日に都内へ帰る。一方で13日から合宿をしている大東大は、22日に関西学院大とトレーニングマッチをおこない23日に埼玉県内の本拠地に戻る。いずれも、日本一にたどり着くのに必要な肥やしを得たい。
(文:向 風見也)

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