コラム 2018.06.28

【野村周平コラム】パスウェイを描く

【野村周平コラム】パスウェイを描く
ジェイミー・ジョセフは、日本はスーパーラグビーに留まるべきと話した(写真はサンウルブズにて。撮影:松本かおり)
■「どんどん問題を表に出せ、課題を見つけたもん勝ちだ」
 最後にぜひ、この場で言わなければいけないことがあります−−。
 日本代表のジェイミー・ジョセフHCが、6月のテストマッチシリーズの総括記者会見の冒頭コメントで自らそう切り出した。彼にしては珍しく、どこか決意めいた口調に聞こえた。
 伝えたかった内容は、代表に直接関するものではなく、サンウルブズが日本ラグビーにもたらしている役割の大きさについて、だった。
 ジョセフ氏は「数年前に私が来日した時、前HCだったエディー(・ジョーンズ氏)のレビューを読んだ。彼は日本ラグビーの強化発展のためには選手、コーチがタフな競争、ハイレベルなラグビーにアクセスできないといけないと書いていた。その基盤を作ったのは今のサンウルブズだと思います」と語った。そして、「サンウルブズによって、コーチ、選手の今後のパスウェイ(進路)が切り開かれたと感じています」と締めた。
 ジョセフ氏はこの後の報道陣との質疑応答で「日本協会はスーパーラグビーからの撤退も視野に入れているがどう思うか」と聞かれると、これまた珍しく2019年度以降の立場にも言及して、明確に自身の思いを述べた。
「日本がこの先も国際的な舞台で戦いたいのだったら、私はスーパーラグビーの継続が100%必要だと思っている。もし私が仮に2019年以降も日本ラグビーにかかわるのなら、そういう状況を求めていきたい。コーチとして、アマチュアであることを言い訳せず、タフな競争の中で力を育む方が好ましいから」
 ジョセフ氏は前日、腰痛の手術のために今季のサンウルブズの残り試合から離脱することを発表した場でも、同様の主張をしている。その中では、2020年末から代表になるための継続居住期間が36か月から60か月に延長されることを受けて、外国人選手が日本代表資格を得るための一つの道としてサンウルブズが重要な役目を果たしている点にも触れ、「日本ラグビーは世界で戦える組織になりたいのか、それとも国内リーグで満足するのか。皆さんに考えて頂きたい」と問題提起した。
     ◇
 日本のスーパーラグビーの契約期間は20年までの5年間。今シーズンも後半戦となり、全体の折り返し地点は過ぎた。大会を主催するSANZAARと、日本側との水面下の話し合いはなされているが、日本協会は今のところ契約延長に後ろ向きのようだ。運営の負担の重さなど、複数の要因があるようだが、明確な理由は分からない。ジョセフ氏は、その状況を知り、何とか釘を刺したかったのだろう。
 スーパーラグビー参戦には、当初からメリットもデメリットも指摘されていた。トップリーグへの悪影響や選手の負担増、身の丈に合わない過大な運営費……。そうした側面から見れば、契約延長しないのも一つの選択肢としてあり得るかもしれない。
 いずれにせよ、2020年以降の日本ラグビーのあり方を考える上で、もう少しこの問題に関する議論を深めた方がいい。日本代表指揮官が発したメッセージを政治的だ、と黙殺するのではなく、日本協会の理事会などの議題にきちんと挙げていくべきだと思う。
 私は2020年東京五輪・パラリンピックの準備状況の取材をしているが、先日、とある官僚に「大会まで2年となり、どんどん具体的な課題が表面化していく。これはマイナスじゃなくて、すごくいいことなんですよ。課題が見つかれば、解決の方策を探れるでしょう。みんなにはどんどん問題を表に出せ、課題を見つけたもん勝ちだ、と話しています」と言われた。まさにその通りだな、と感じた。
 ラグビー界には表面化していない課題が多い。例えば、6月3日に豪州で行われたサンウルブズvsブランビーズ。31―41の惜敗だったが、日本代表メンバーの大半は翌週のテストマッチを控えて不在だった。代表活動が優先されるのは理解できるし、残った選手が前向きに力を発揮したのも喜ばしいことだが、果たしてこれが最善策だったのか。例えば、プレーオフ出場を争っていたら同じ選択肢をとったのか。もっと議論されていいと思う。
 また、私は中学ラグビーの取材をする中で、競技環境の先細りに現場の先生が強い危機感を抱いていることを実感した。日本協会はW杯を機に競技人口20万人以上を目標に掲げ、大会組織委員会や全国のラグビースクールと協力して「ラグビー一斉体験会」などを展開しているが、こうした機運を一過性に終わらせないためにも、特に中学世代の環境整備を丁寧に整えていく必要がある。
 今の代表チームは選手が自主的に課題を話し合い、試合に落とし込んでいるのだという。冒頭の会見、そうした自主性の発露をジョセフ氏は最も喜んでいた。
 きっとそうした自主性は、ラグビー界全体に必要なのだと思う。ラグビーの、スポーツの最大の美徳は自由だ。誰かを傷つけないために、自身の保身のために、疑問に思ったことを表に出せないのなら、それはきっとこの競技に対する冒瀆だと思う。
【筆者プロフィール】
野村周平(のむら・しゅうへい)
1980年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、朝日新聞入社。大阪スポーツ部、岡山総局、大阪スポーツ部、東京スポーツ部、東京社会部を経て、2018年1月より東京スポーツ部。ラグビーワールドカップ2011年大会、2015年大会、そして2016年リオ・オリンピックなどを取材。自身は中1時にラグビーを始め大学までプレー。ポジションはFL。

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