コラム 2018.06.22

【田村一博コラム】越中島の若者たち。

【田村一博コラム】越中島の若者たち。
左から東京海洋大学ラグビー部の川村大和、田村祐太朗主将、岩佐晃、鈴木宏武。(撮影/松本かおり)

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個性的な学生たちが、ひとつの目標に向かっているチーム。(撮影/松本かおり)
 今月もなんとか編集作業が終わった。
 きょうの午前中には、6月25日発売のラグビーマガジン8月号が出来上がってくる。
 校了直後には毎月ふらふらも、すぐに外に出たくなる。
 取材で出会う人たちに元気をもらって生きている。
 今月号の作業中に東京海洋大学のグラウンドを訪ねることがあった。
 試験的ルールが本採用されるにあたり、記事にした。そこに掲載する写真を撮影するために同ラグビー部に協力していただいた。
 グラウンドは越中島にある。遠くに豊洲の高層マンションが見える。
 サンウルブズが練習を重ねる辰巳から、もっとも近い場所で活動している大学ラグビー部でもある。
 午前8時の取材開始。少し早めにグラウンド到着したが、誰もいない。
 と思ったら、チームは朝練を終えて、集合時間少し前に別のところからあらわれた。地区対抗関東1区を戦いの舞台にしており、全国大会への出場を目指している。
 このクラブのOBの方々と会ったことがある。市場勤務。飲食店経営。NECグリーンロケッツでプレーしていた佐藤平さんは、海の仕事の夢を実現するため、現役引退後に会社を辞めて、ここで学んだ。
 長く監督を務める鶴留洋一さんはカニの卸業社の社長だ。
 現在在籍している部員たちも個性あふれている。
 女子マネージャーが「あの4年生のHOはイカの研究をしているみたいですよ」と言うので、撮影の合間に近づく。千葉・佐倉高校出身の岩佐晃は、ソナーによるデータを解析し、アカイカの生態を調査する研究をしていた。
 ソナーとは、船底から海中に超音波を発して、その反射波から魚群の分布や密度を知る装置だ。
「幼い頃から海が好きで大自然に憧れていました。それに携わる仕事がしたいな、と思って進学を決めました。アカイカの生態を調べ、資源量が分かると、継続的、計画的な漁獲量を確保できるようになるんですよ」
 岩佐はFL、LOでもプレーできる。
 LOの川村大和とNO8鈴木宏武は、ともに海洋工学部に学んでいる。
 神奈川・七里ガ浜高校から入学した川村は、水中ロボットの研究をしている。ロボット研究会にも所属し、大学2年時には水中ロボットコンベンションにも参加した。
「将来はROV(遠隔操作型無人潜水機)の技術者になりたい。新しいものを作り出せたらいいですね。それを使ってどういうことをやるかというと、例えば、ある地域で海藻が獲れなくなった。それはウニが増えすぎたからでした。小型水中ロボットを使って調査しました」
 藤沢ラグビースクールで楕円球を追い始めた。
 鈴木は海と機械が好きで、この大学に来た。卒業後は大手海運会社への就職が決まっており、機関士としての人生がはじまる。
 青森高校出身で、いまも故郷のイントネーションで話すNO8の瞳は、将来のことを話すときキラキラ輝いていた。
「船の運航は、船長と機関長が同じくらいの責任を持っているんですよ。機関長は機関士のトップです。最初は補助機械類の整備から始まり、三等機関士(サードエンジャー)から、二等、一等、そして機関長となるのに、15年ほどかかるようです。船のプラントはすべてが一本でつながっていて、それぞれの部門の人たちが責任を果たして、初めてきちんと目的を達成できる」
 まさにチームで、ラグビーと重なるのだと言った。
 大学生活の中でも、毎年実習船で航海に出てきた。その体験から「みんなで動いている感覚があって、あらためて、ここを選んで良かったと思いました」。
 人生の航海も、希望に満ちている。
 キャプテンの田村祐太朗も、この大学に来てよかったと思っている。
「いろんな分野を深く学んでいる人が多いので、個性が強くておもしろいですよ」
 ラグビー初心者も少なくないが、みんな4年のうちに立派なラグビーマンになる。それぞれの没頭する性格が、プレーにも生きるのだろう。
 ちなみに、SOを務める主将は仙台第一高校出身。海洋科学部の食品生産科学科に学んでいる。
「高校時代から食べることが好きで、食べ物のことを学んでみたいな、と思っていました。いまは食品冷凍学を学んでいて、例えば、冷凍したカニを解凍するときにカニミソが黒変と言って黒く変色することがあるのですが、そういったことを食品添加物に頼らず解消できる冷凍技術などを研究しています。これ、(カニ業者の)監督からも、期待されている分野なので、しっかり勉強しています」
 強豪チームへの取材時に最先端の理論を知る。
 有名選手のインタビューでワールドカップへの熱い思いを聞く。
 それらもラグビー専門誌の編集に携われていることへの感謝を感じる瞬間に違いない。
 しかし、楕円球の存在を介してできた縁で、さまざまな世界に生きる人たちがその分野で必死に生きながらも、ラグビーに熱中している現場に触れられる。これも、最前線での取材に負けないくらいの、この仕事に就く魅力と思っている。
 前出の元トップリーガー、佐藤平さんが31歳で同大学の3年生のとき、チームのホームページにこう書いている。
「ただひとつ言えるのは、自分はここでのラグビーをとても楽しんでいて、とても充実した時間を過ごせているという事です。それには同じチームで同じ時間を共有した若手OBの方々、あらゆる面でサポートしてくださるOBの方々、監督、コーチ、マネージャー、チームメイト、対戦相手チームなど様々な要因が絡んでいると心から思っています。(中略)明日の試合を最後に、私を含む3年生4人は航海実習のため1か月チームを離れる事になります。人数がぎりぎりという状況の中、チームには迷惑をかけますが明日勝利出来るよう、怪我など考えずその瞬間を大切に試合を楽しみたいと思います」
 航海に出た後、佐藤さんは同期と試合を振り返り、次戦を戦う仲間のことをきっと考えた。
 洋上で友を思う。
 その光景が目に浮かぶ。
【筆者プロフィール】
田村一博(たむら・かずひろ)
1964年10月21日生まれ。1989年4月、株式会社ベースボール・マガジン社入社。ラグビーマガジン編集部勤務=4年、週刊ベースボール編集部勤務=4年を経て、1997年からラグビーマガジン編集長。

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