女子 2018.05.29

自分にクソッ。サクラセブンズ桑井亜乃、「13番目」の苦悩と闘志。

自分にクソッ。サクラセブンズ桑井亜乃、「13番目」の苦悩と闘志。
171センチ。アルカス熊谷所属で勤務先は八木橋百貨店。北海道・幕別町出身。
(撮影/松本かおり)
 桑井亜乃の体がシャープになった。
 体脂肪率は5〜6パーセント、重さにして5キロほど体重が落ちた。
 桑井亜乃がもがいている。
 どちらも真実だ。
 2016年のリオ五輪にも出場し、女子セブンズ日本代表(サクラセブンズ)として活躍してきた28歳。大学時代まで円盤投げの選手として活躍した体幹の強さを活かし、女子ラグビーのトップ選手となったアスリートが国際舞台から遠ざかっている。
 最後にピッチに立ったのは、昨年の12月におこなわれたHSBCワールドラグビー女子セブンズシリーズ 2017-2018第1戦 ドバイ大会だ。
 強化合宿をくり返すサクラセブンズの練習にはいつもいる。
 遠征に向かうスコッドの中にもいつも。
 しかし大会登録の12人に絞り込まれる際、いつも「13番目」となる。
 最後の最後でいつも選ばれない。競争に敗れたことを知ったときの胸のうちを、桑井は言った。
「クソッ。自分にクソッと思います」
 誰のせいでもない。自身に矢印を向ける日々が続く。
 今季のワールドシリーズ第2戦 オーストラリア大会(シドニー/1月)では12人の登録メンバーに入りながら、試合直前にコンディションを崩して試合に出られなかった。
 4月の北九州大会、5月のカナダ大会では、直前合宿に参加した13人の中でただ一人登録メンバー外となった。仲間と同じスタジアムにいながら、サポートに回った。
 シドニー大会後の2月と3月、桑井はサクラセブンズと離れることになった。体を絞り込んだのは、その時だ。
「何かそれまでとは違ったことをやらなければ、チームにあらためて加わったときに、前と変わらないと思ったので」
 コンディションを整えるとともに、食事を変えた。それまで、「出されたものは残さない」主義だったが、自炊を増やし、コントロールするようにした。
 生野菜を温野菜へ。炭水化物を減らし、タンパク質を多く摂取。冷蔵庫にブロッコリーとトマト、ほうれん草を常に入れておくようにした。
 疲れたときに馴染みの食堂に行くときも、「いつものお願いします」と言えば、揚げ物等は抜いたものが出てくるように頼んだ。
「リオ五輪の時と同じぐらいの調子になればいいな、と。でも、(体重を落としたことで)自分の強味である力強さが失われるのは嫌でした。走れるし、当たり負けしない。両方を手にしたかった」
 まだ以前ほど強気で走れていない。しかし防御時のジャッカルなど、自分らしさを取り戻しつつある。
 ただ、首脳陣が求めるレベルにはまだ達していないのだろう。12人に入れない。
 期待に応えられない自分が歯痒い。
「まだ足りていないと思うときもありますし、自分のパフォーマンスを見せられていないのかな(出せていない)と思うときもある」
 万全でない体調を言い訳にはしたくない。
 もやもやを払拭できないでいる。
 以前にも同じようなことがあった。
 2014年9月に香港でおこなわれたコアチーム昇格大会(シリーズ2014-2015)の頃だ。
 5位に終わり、コアチームにはなれなかったその大会に出場はできたが、当初選ばれていた大黒田裕芽の怪我により、急遽繰り上がったのが現実だった。
「あのときも13番目だと言われて、何かを変えなきゃと思ったんです。それで、立正大の男子選手に相手をしてもらい、ひたすらタックルの練習をしました」
 そうやって手に入れたのが、自分の武器となるジャッカルの技術だった。
 だから今回も自分だけの時間を作り、以前より強くなる決意だ。
 ひとりだけメンバーから外れ、試合を見つめるとき、悔しくないはずがない。しかし、「同じ練習をしてきた仲間を近くで応援できるのは私だし、サポートできるのも私」と心を落ち着かせ、チームに寄り添う。
 ただ、黙って敗北を受け入れない。メンバーのサポートをしながら、先の舞台に闘志を燃やす。
「みんなが試合期でウエート(トレーニング)ができないときも、私はやれる。そのときチームの一員としてやるべきことをやった後、(次こそ12人に入るために)自分の時間をしっかり持って鍛えています。自分にしかできないことを徹底してやる」
 現状を打破する方法はトレーニングに集中する他に道なし。多くのことを経験する中で知ったことだ。
 若い選手が増えたチームを「みんなテクニックがあって、うまい」と認める。
 しかし、リオ五輪への道を歩み、その大舞台を踏んだ自分たちには「泥臭さ」がある。
「ひと通り経験してきたので、一つひとつのプレーの大事さはわかっているつもりです」
 それは一瞬一瞬、あるいは一日一日の大切さとも置き換えることができる。
 コツコツと積み重ねていく粘り強さがある。
 試練のとき。
 思うようにいかない理由を、自分の中に探してこそ成長がある。
「これまでのように、メンバー入ったままだったら、足りないことに気づかなかったかもしれません。それをコーチに気づかせてもらっています。それらをクリアしたとき、自分しかできないパフォーマンスを取り戻せると信じています」
 5月28日からHSBCワールドラグビー女子セブンズシリーズの今季第5戦 フランス大会(6月8日〜10日)に向けた合宿に入ったサクラセブンズ。13人の選手たちがチーム力を高めるためにも競い合い続けている。
 前回の合宿時、桑井は言った。
「次はピッチに立ちたい。期待されるものを出せる自信もあります」
 仲間の誰もが同じ気持ちなのは分かっている。
 泥臭く、誰よりも強く、何度でもそう思い続けるだけだ。
 ギラギラした負けん気を胸に収め、黙々と準備を重ねる。

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