国内 2018.01.11

今度こそ心底喜びたい。頂上決戦で2番背負う、サントリー北出卓也の逆襲。

今度こそ心底喜びたい。頂上決戦で2番背負う、サントリー北出卓也の逆襲。
横浜支店勤務。酒類営業担当としてスーパーやチェーン店との商談の席につく。
(撮影/松本かおり)
 3年目にして大役を担った男がパックの中心にいた。
 決戦2日前(1月11日)のサントリー府中スポーツセンター。スクラム練習時、先発出場が予定されているFW8人の先頭に立ち、もっとも声を出しているのが北出卓也だった。
 2015年の春に東海大から入社した。1年目こそリーグ戦7試合と順位決定戦1試合に出場も、チームは9位に沈む。昨年はリーグ戦1試合、日本選手権1試合(帝京大戦)の出場にとどまった男が、今季は9節以降、6戦連続で2番のジャージーを着続け(計9試合に出場)、シーズンのフィナーレを飾る日本選手権決勝でも先発する名誉を得た(準決勝でも先発)。
「泣いても笑っても、あと1試合。いい緊張感を感じています」
 サンゴリアス加入後いちばんの大舞台に「わくわくしている」と胸の高鳴りを口にした。
 2016-2017年シーズン、トップリーグでの全勝優勝と日本選手権の2冠を達成したサントリー。チームは前年の低迷からの飛躍に沸いた。北出もチームマンとしての喜びは感じたものの、自身の少ない出番に、心の底から満足はできなかった。翌シーズンも同じ状況なら、選手生活を続けられるのだろうか…と不安が頭をよぎった。
 変わらなければいけない。そう頭と心を切り替えて臨んだのが今季だ。
 同じポジションには、セットプレーに経験値の高いベテランの青木佑輔、アタック能力に秀でる後輩の中村駿太がいる。精鋭揃いのライバルとの争いの中で、自分はどこで勝負するのかを考えた。
「セットプレーの安定、コントロールする力は絶対条件として、どこでプラスαを示し、自分のカラーをどう出すかを考えました。他のふたりの持ち味を考え、自分はタックルやディフェンスで違いを出してアピールしようと思いました」
 ラグビーそのものへの取り組み、毎日のトレーニングでの成果を高めるための姿勢を変化させるとともに、自分のウリを作るための時間を重ねた。
 試合や練習のレビュー映像で自身のプレーを徹底チェックするほか、タックルスキルに長けた選手の研究も。その結果、以前は飛び込みがちだったタックルは改善された。それは1試合で2ケタを記録するタックル数、90パーセントという成功率を示す個人スタッツが証明する。
 S&Cコーチに相談して、肉体改造も進めた。180センチ、102キロの体躯は少しの増量も、筋肉の量は増え、体脂肪はひと桁台に。バックロー並みのシャープさだ。
 努力を重ねてつかみ取った先発の座。名誉に感じる気持ちは心地よいが、そのぶん責任も大きくなった。だから、シーズンのフィナーレを飾る試合で勝ちたい。チームの勝利に貢献したい気持ちは強い。
 対戦相手、パナソニックについて「個々が強く、判断もいい」と話す。
「だから、ボールキャリアーを一発で仕留めて勢いを出させないようにしないと」
 高めたテクニックを余すことなく出し切りたい。
 スクラムでは日本代表、スーパーラグビーで活躍するワールドクラスの堀江翔太と組み合うことになるが、「経験値に差があるのは仕方ありません。自分の個性を出して勝負するだけです」とチャレンジャースピリットを前面に出す。
「フッカーは、その局面、局面で、FWがどうなっているかいちばん分かるポジションです。だから監督にも、FWを引っ張っていけと言われています。スクラム、1本目から押していきたい。最後まで押し続けたい」
 日々の練習でトイメンになることが多い、先輩の青木からのレビューを自分の財産に代え、進化した。その恩返しを勝利に込めることができたら最高だ。
 京都に生まれ、3歳の頃、洛西ラグビースクールで楕円球を追い始めた。西陵中、東海大仰星、東海大とプレーを続けたが、まだ日本一になったことはない。
「このチャンスをものにしたい」
 そう言って見せた大きな笑顔を、ファイナル後にも輝かせたい。

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