国内
2017.12.29
最前線に立ち続けた。山口高校FL西見?太郎、大きく変わった3年を終える。
後半21分過ぎ、7-29とリードされていた。
山口高校のFL西見?太郎は、自分たちがノックオンしたボールを拾って攻撃に転じた背番号11を遠くから追っていた。黒沢尻工WTB阿部了が長い距離を走り切り、インゴールに入ってからだった。
この日3トライを挙げた好ランナーは、追っ手はみんな諦めたと思っていたのだろう。スピードを落とし、グラウンディングしようとしていた。
その直前、必死の形相で迫う男に気づく。ぎりぎりのところで、ひょいと避けた。
渾身の追走が届かなかった西見は、天を仰いだ。
「まだ、なんとかなる点差だと思ったので。絶対にトライさせたくなくて」
12月27日に始まった全国高校ラグビー大会。開会式後の第1グラウンド、第1試合で実施された山口×黒沢尻工で、黒×黄のジャージーは14-36で敗れた。
前回大会で64年ぶりに冬の決戦に挑んだ山口県屈指の進学校は、今年もまた聖地の芝を踏んだ。県予選決勝では17点ビハインドの劣勢から24-24の引き分けに持ち込み、トライ数差で全国切符を手に入れた。だから先行されたこの試合でも、選手たちは落ち着いていた。
例えば0-10のスコアで迎えた前半21分。山口はNO8宮川透也のトライとSO右近陸人のコンバージョンで3点差に迫る。
そのきっかけを作ったのがFL西見だった。
トライシーンの前の局面。自陣深くから攻めた黒沢尻工のボールを取り返した。背番号6は右サイドでのラックに鋭く頭をねじ込み、相手を押し込んだ。ターンオーバー成功。
「相手は(自分たちの)人数がいることで安心しているように見えました。肩の下が空いていたので、そこに突っ込みました」
ディフェンスの最前線に立ち続けよう。この試合、西見はそんな思いを胸にピッチに出た。実際、最後まで体を張り続けた。
「でも、足りませんでした。まだいける、まだいけると思い、やり続けましたが(開会式直後ということで)、いつもと違う雰囲気に緊張していたのか、なかなか(チームの勢いを)上げ切れなかった」
ファイターは唇を噛んだ。
172センチ、72キロの西見は、中学まで水泳に打ち込んでいた。高校入学後、ラグビー部に入部。熱烈な部員勧誘活動に心を動かされたからだ。陸上での集団スポーツ、そして球技という未知の領域に戸惑ったうえに、足首、膝、肩を痛めることが多く、3年間は怪我との戦いでもあった。
体重を増やすことにも苦しんだ。休み時間ごとに栄養をとり、晩ご飯も2回にするなど、一日に何度も食事をするのが日常に。結果、やっと20キロ増えた。
「ただ、それらのことだけでは、大きくて、強い相手とは戦えないので、低くプレーをすることを心掛けてきました」
前回大会、2回戦で対戦した松山聖陵戦で学んだ。前半途中から出場したその試合で、U17日本代表に選ばれた経験のあるHO三好優作主将(現・明大)にコンタクトした際、かなわなかった。その試合以外にも強豪校と対戦するたびに、普通にプレーしていてはダメだと感じてきた。
だから、低く、鋭くプレーすることを日常から心掛けた。その成果が2年連続の花園であり、先のターンオーバーのシーンだった。
2年時の聖地でのプレーを「悔いが残った」と言う西見は、この試合についても、「たくさん悔いがある」と振り返った。
「勝って(2回戦で)京都成章と戦い、全国トップの力を感じたいと思っていたのですが」
しかし後半23分、仲間がつないだボールを自分がインゴールへ運んだ。そのとき左サイドに位置していた西見は、3番PR小林宗平からパスを受けて必死で走った。
「絶対に決めるつもりで走りました」
ボールをインゴールに置いた後、駆けつけた仲間と抱き合った。まだまだ勝負を捨てていない顔をしていた。
卒業後は東京の大学への進学を希望している。成蹊大学は、志望校の中のひとつだ。
関東大学対抗戦Aを舞台に戦う同大学のジャージーを着た西見の姿を、今度は東の聖地、秩父宮ラグビー場でも見ることはできるだろうか。