国内 2017.11.17

花園出場は「本当にすごいこと」。友人同士が辿ったそれぞれの運命。

花園出場は「本当にすごいこと」。友人同士が辿ったそれぞれの運命。
感激の涙を流す手塚竜闘。(撮影/多羅正崇)
 目黒学院の優勝に感極まるその男子高校生は、同校の生徒ではなかった。他校のラグビー部員だった。
 
 11月12日、東京・江戸川区陸上競技場でおこなわれた東京都第1地区の花園予選決勝で、目黒学院は38−7で早稲田実業を降した。
 
 4年ぶり18度目の花園出場を決めた目黒学院メンバーは、表彰式を終えると、優勝旗をたずさえて正面スタンドの前に整列した。秋晴れの下で一礼すると、スタンドからは温かい拍手が送られた。
 
 そんな目黒学院の姿をスタンドから見守っていた男子高校生、手塚竜闘くんは、溢れる感情をこらえきれなかった。
 東京の代表になることの難しさなら、身に染みている。
 友の雄姿がまぶしかった。
 手塚くんは都内の高校に通う3年生。同校ラグビー部で汗を流してきた。
 ラグビーとの出会いは中学3年生の冬。東京・日野市立大阪上中学校では野球部員だったが、2015年1月、新春のラグビー中継で楕円球の魅力に触れた。
「テレビで観て『かっこいい』と思いました。中学3年生の正月です。第一印象で『やってみたいな』と思いました。たしかヤマハ発動機の試合でした」
 そうして中学卒業後、進学先のラグビー部に入部。
 驚いたのは、日野市立大阪上中で野球部のチームメイトだった親友も、目黒学院でラグビーを始めていたことだった。
 友の名は鈴木勇志といった。
「小学校から一緒でした。中学時代はずっと一緒にいました」
 共に白球を追いかけた中学時代は、二人でよく素振りをしていた。
「中学時代、夜に一緒に素振りをしていました。『やろう』と言うと、彼は嫌とも言わないで、自転車で来てくれて。夜遅くまで素振りをして、すこし喋ったりして。それが一番楽しかったです」
 ラグビー部員となった日野市立大阪上中の二人は、同じフロントローとして高校3年の秋を迎える。しかし花園予選で辿った運命は、別々だった。
 手塚くんの所属するラグビー部は9月24日、都予選の1回戦で破れた。
 突然のノーサイド。
 昨年12月に始まった新人大会では、年を越して4回戦まで勝ち進んでいた。春季大会でも4回戦まで残ったチームだった。
 
 かたや親友の所属するチームは11月12日、東京都第1地区の頂点に手をかけた。
 手塚くんは江戸川区陸上競技場に出掛け、そして4155人の観客の前で後半16分から途中出場し、タックラーとして、ラックサイドのキャリアーとしてプレーする友の姿を目の当たりにした。
「率直に言って、本当に嬉しかったです」
 手塚くんは優勝旗をたずさえた目黒学院を、スタンドの最前部で出迎えた。
 東京の代表になることの難しさ、素晴らしさ。
 スタンドの鉄柵を握りしめ、目黒学院の背番号16の姿を追いかけた。溢れる涙には、きっとさまざまな感情が入り混じっていた。
「感動しました。本当にすごいことなので」
 親友が自分の代わりに花園へ行ってくれる――そんな想いもある、と手塚くんは言った。その声色は心なしか明るかった。
 友はこれから次の舞台へ向かう。第97回全国高校ラグビー大会。“本当にすごいこと”を成し遂げた選手たちが集う、夢の舞台だ。
(文/多羅正崇)

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背番号16が目黒学院の鈴木勇志。(撮影/多羅正崇)

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