コラム 2017.11.15

不屈の隻眼の英雄 イタリア代表になったイアン・マッキンリー

[ 竹中 清 ]
不屈の隻眼の英雄 イタリア代表になったイアン・マッキンリー
冷静にゲームをコントロールし、勇敢なタックラーでもあるイアン・マッキンリー(Photo: Getty Images)
 2017年11月11日、イタリアのシチリア島カターニアでひときわ大きな拍手と声援を浴びたラグビーマンがいる。
 イアン・マッキンリー、もうすぐ28歳。6年前に左目の視力を失い、一度はプレーをあきらめ引退した男だが、2014年に現役復帰し、それから3年後の秋、イタリア代表として念願の初キャップを獲得した。
 マッキンリーはアイルランドの首都ダブリン出身で、U20アイルランド代表の司令塔として2009年のジュニアワールドチャンピオンシップ日本大会でプレーするなど、将来を嘱望されたスタンドオフだった。
 同年、母国の名門・レンスターに入団し、19歳でプロデビュー。
 しかし2010年、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの一員として臨んだ試合中、アクシデントに見舞われる。ラックの一番下になり、仰向けになった彼の左目をチームメイトが踏んでしまった。目が見えなくなり、病院へ行くと、左目が少し出ているから動くなと医師から言われた。手術を受け、1年間の運動禁止を命じられた。でもラグビーへの思いは募るばかりで、何度も病院に通いながらリハビリを続け、6か月後にはレンスターの試合に復帰。視力も順調に回復していった、と思われた。しかし、のちに育成チームで試合に出たとき、これまで経験したことのない視界の曇りを感じ、病院で診てもらうと白内障が見つかった。さらに手術を受けたが、正常に戻ることはなく、医師から左目の視力がゼロになったと告げられた。
 21歳で引退を余儀なくされ、次の道を探していた矢先、レンスターを通じて、イタリアのウーディネにあるジュニアチームでコーチをやらないかと誘われる。16歳以下の選手たちを指導し、それなりにやりがいを感じていたが、プレーへの思いは断ち切れずにいたとき、コンタクトスポーツのラグビーでも使える丈夫で安全な、目を保護するゴーグルをイタリアで製造している会社があると聞き、飛びついた。
 引退から3年後の2014年、地域リーグの3部に属するチームで現役復帰。才能が認められてイタリア国内最高峰リーグで戦うプロチームのヴィアダーナに入団し、2015年には古巣のレンスターなどと一緒のリーグ(現プロ14)で戦うゼブレと契約、そして2016年から現在所属するベネトン・トレヴィーゾの一員となった。
 ベネトンでレギュラーの座をつかみ、イタリアで継続居住3年を経過したマッキンリーは、今年5月にイタリア代表のトレーニングスコッドに呼ばれた。残念ながらそのときは試合に出場することはなかったが、今秋、代表メンバーに初選出され、11月11日のフィジー代表戦でベンチ入り。そして後半22分、SOカルロ・カンナと交代して大声援のなかフィールドに足を踏み入れ、終盤にはPGで貴重な3点をチームにもたらし、19−10の勝利に貢献した。
 イタリア代表は来年6月に大分で日本代表とテストマッチをおこなう方向で調整が進んでおり、マッキンリーも来日するかもしれない。そして、力強い右目と不屈の精神を持った隻眼の英雄は、2019年のワールドカップも見据える。

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