国内
2017.11.10
早大は大勝も「楽になりたい」厳禁と誓う。桑山淳生は走り改革で4トライ。
99−14で勝利も、14失点が気になった。
例えば前半32分。敵陣での着実なラック連取で防御を崩すも、開いたスペースでのパスワークにエラーが起きる。対する成蹊大にボールをさらわれ、一気に自陣ゴールエリアまで走られた。
35−14。好機で得点ではなく失点したこの瞬間を、早大の山下大悟監督が振り返る。
「こういうことが少しでも出ること自体が、まだまだ緩いな…と。非常に、許しがたいプレーです」
11月5日、神奈川・相模原ギオンスタジアム。前年度2位だった関東大学対抗戦Aの第5戦目に挑んでいた。同8位の成蹊大から4勝目を挙げるも、就任2年目の指揮官は「不満だらけです」。史上最多記録を更新する9季ぶり16回目となる大学選手権制覇を目指し、細部のチェックは欠かせない。例のシーンについて、こうも述懐した。
「BKのエラーがスコアになっている。スキルミスの要因が、アンダープレッシャーではなく(相手によるものではなく)『早くスコアを離したい』『早く楽になりたい』という(自軍の)甘えから来ている」
収穫は、選手層の拡大に成功しつつあることか。新人のNO8の下川甲嗣、FBの古賀由教ら主力格が「メンテナンス」などのため欠場した一方、対抗戦初先発となった2年のWTB、桑山淳生が4トライをマークした。
まず12分には、自陣22メートル線付近左で相手防御網を破り、パスを渡した味方を敵陣ゴール前までサポート。自らフィニッシュを決める。続く28分には、敵陣ゴール前左のラインアウトモールの右隣で、ゴールラインとほぼ平行なパスを受け取る。スピードに乗ってステップを踏み、加点した。
後半2分には三度インゴールを割ると、14分には、自軍ボールセンタースクラムから出たボールを無人の左タッチライン際で受け取る。カバーに回ってきた相手FBも緩急をつけたフットワークで振り切り、ゴールポストの真下まで回り込んだ。
当の本人は、4トライという結果より4トライまでの過程を喜ぶ。
「トライは結果でしかない。過程の部分、例えばきょうは久しぶりにAチームと合わせたので、そこでのコミュニケーションのすり合わせを大事にした」
1学年上の兄・聖生(この日は後半12分から出て1トライ1ゴール)と同じ鹿児島実高出身。現在の公式サイズを身長183センチ、体重92キロとするなど体格にも恵まれたが、何より球をもらう前の動きの質などで評価を得た。相手の死角を端的にえぐり続け、17歳以下日本代表などでも活躍した。
早大入学年度は、6月5日の慶大との関東大学春季大会Bグループの試合(大阪・花園ラグビー場/●5−57)で膝の前十字靭帯を負傷。以後は実戦から遠ざかったが、東京・国立スポーツ科学センターでの「腰回りの強化」によってモデルチェンジを図る。
怪我の遠因かもしれなかったヒザ主体の走り方を、「お尻をしっかり使って走る、ステップを切る」という形に変更したのである。上京後にやや増えすぎたという体重は現状維持。ようやくレギュラー争いに参画し、「しっかりAチーム(主力組)で出続ける。チームとしては日本一が目標ですけど、試合に出られなかったら直接の貢献はできない」と目をぎらつかせる。山下監督はこう評価する。
「今年残り2か月で、ブレイクダウン(接点)での2人目の仕事などの足りないところは補って、バーッと走っていくいいところは伸ばしていきたい」
早大の対抗戦の試合は、残り2試合となった。23日に昨季4位の慶大戦、12月3日には同3位の明大戦と、伝統的なカードが残される。
タフなゲームに耐えうる選手層とプレーの質を求める指揮官は「慶大さんは自分たちのやるべきことを100パーセントやってくるのが素晴らしい。明大さんのポテンシャルは大学で一番。両方とも、非常に強い」と警戒心を示し、グラウンドを後にした。
(文:向 風見也)