国内 2017.10.15

救急搬送を「笑い話」にできれば。法大・土山勇樹の一番悔しいこととは?

救急搬送を「笑い話」にできれば。法大・土山勇樹の一番悔しいこととは?
写真中央が法政大のPR土山勇樹。中央大戦でスクラムを組む前(撮影:松本かおり)
 表情は浮かない。法大の右PRとして後半33分までプレーした土山勇樹は、ジャージィを着たまま実感を語る。
「勝ちはしたんですけど、まだブレイクダウンの質やペナルティーの数が…。練習で、厳しく突き詰めていきたいと思っています」
 10月9日、東京・上柚木陸上競技場。加盟する関東大学リーグ戦1部の3戦目に挑んだ。47−21のスコアで中大から今季初白星を得たが、大きな突破の後に停滞した攻め、犯した6つの反則に首を傾げた。試合後の円陣でも首脳陣から辛口の評価が続いており、3年生の土山もこの調子だった。
「フェーズが重なるほど周りの人間とのコミュニケーションが少なくなって、キャリー(ボール保持者)が1人で行ってしまうところがあった。きついところでも連携を取っていかないといけないと思いました」
 身長180センチ、体重113キロ。東福岡高時代からスクラム、突進、タックルで強靭さを示し、高校2年時から高校日本代表入り。同窓生の多い法大に加わった。
 法大は他にも有望株が多く、土山と同じ高校出身で1学年先輩のCTB/WTBである東川寛史主将、1学年後輩のLO/FLであるウォーカー アレックス拓也など、高校日本代表経験者は多数。同級生で埼玉・深谷高出身のSOである金井大雪は、20歳以下日本代表としても活躍していた。それでもクラブは低迷の只中で、昨季は大学日本一を争う大学選手権に出られず、下部との入替戦に進むこととなった。
 才能を勝利に昇華できぬ現状を、土山はどう見ているのだろうか。「いい選手が入っているのになんで勝てない、と言われるのが一番悔しくて…」とし、こう改善点を明かす。
「優勝を目指すチームはターンオーバーが起きた時などの反応、走り出しを、チームとして突き詰めている。一人ひとりじゃなく、全員がそれをしないと、上位には行けないと思います。もっと練習から厳しく徹底していきたいです」
 献身的で実直なさまは、元神戸製鋼の苑田右二ヘッドコーチにも「貪欲。すごく努力する。よくなっています」と信頼される。また、その資質をにじませる逸話を高校時代にも残している。
 2013年8月下旬、17歳以下日本代表として中国・維坊市に出向いた時のことだ。当地であった日・韓・中ジュニア交流会のあるゲームに先発も、試合後に完全燃焼して倒れてしまう。そのまま現地の救急車で運ばれ、車中ではただただ「すいません、すいません」を繰り返したという。
 結局、大会を3戦全勝で終えた土山自身は、その折をこう振り返る。
「本当にだめなのですけど、熱があったのに黙って出て…。その試合はなんとかやったのですけど、終わってからが…。救急車で点滴を打たれました。失敗というか、自分の準備不足です」
 裏を返せば、体調が優れぬまま国際試合を戦い切ったとも取れる。搬送中に付き添ったのは、日本協会の中竹竜二コーチングディレクターだった。各地へ足を運び若年層の才能を発掘する中竹は、ただただ「すいません」を繰り返す土山にこう告げたという。
「もしこのまま成長して2019年のワールドカップ日本大会に出られたら、このことは笑い話になるじゃないか」
 その言葉を覚えているという当の本人はいま、自身の成長と我が部の勝利に力を注いでいる。
「スクラムを押して元気づける選手になりたい。すべてのプレーに全力で、ひたむきにやりたいと思っています」
 法大は10月22日、埼玉・しらこばと運動公園競技場で目下3戦全勝中の大東大とぶつかる。
(文:向 風見也)

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