海外
2017.09.07
SR削減問題は大論争に発展。フォース地元での今週末テスト戦は異様な空気?
オーストラリアラグビー協会(ARU)が8月11日、スーパーラグビー(SR)の再編にあたりオーストラリア勢から削減するチームを、西オーストラリア(WA)州パース拠点のウェスタン・フォースと発表したが、SR縮小問題は終焉を迎えるどころか、財界や政界を巻き込んだ大論争に発展している。
フォース削減の発表から3日後の8月14日、フォースの母体であるWA州ラグビー協会が、フォースを外すに至ったARUによる調停の裁定に対しNSW州最高裁判所に上訴するも、9月5日に却下されて無駄骨となった。
ARUはNSW州最高裁の決定を歓迎するとともに、5チームを存続させればARUが2019年に破たんに追い込まれることを示す資料を公開して立場を正当化した。
それを受けて、今季限りで引退するフォース主将のFLマット・ホジソンは言った。
「決定が僕らにとって何を意味するかわかるだろう。12年間州と国のために尽くしてきたのに、ばかげた法律の条項ひとつで片付けられてしまった。ARUが我々のために努力しなかったことが残念だ。みんなウェスタン・フォースのためにプレーしたいと思っている。(削減の危機に立たされてから)140日以上が経った今も我々がどれだけ頑なであるかがわかるだろう。我々の船に漏れはない。我々は強く戦うのだ」
チーム存続への思いを涙ながらに語った。
削減チームを決定する上で焦点となった財政問題だが、8月上旬に存続運動の先鋒役を買って出た資産家のアンドリュー・フォレスト氏がフォース存続のために5000万ドル(約44億円)の資金提供を申し出るもARUが拒否したという経緯がある。
キャメロン・クラインARU会長は「これまでWAラグビー協会には多くの機会があった。我々が過去18か月間働きかけてきたが、その間、支援を申し出る人はいなかった。土壇場で支援が提供されたことに苛立ちや失望を感じている。WAラグビー協会はなぜ4月の時点でフォレスト氏に連絡を取らなかったのか? 8月2日の時点でなぜその支援がなかったのか? なぜ18か月前になかったのか? これらの支援があったら話が全然違った」とWA協会の姿勢に疑問を投げかけた。
これに対してフォレスト氏は「私は戦闘を開始した」と宣戦布告を口にした。フォースを含めた、インド洋・太平洋地区に属する6チームによる新たなリーグ戦の創設に乗り出すというのだ。
「このリーグは新しいフォースの門出となり、新たなインド洋・太平洋地区のコンペティションの始まりでもあり、私がその先導者でいることを喜ばしく思う」と自信をみなぎらせており、すでに香港ラグビー協会が新リーグ参戦に興味を示しているという。
これに加え、国内屈指の弁護士の一人として知られるアラン・マイヤー氏を雇い、NSW州最高裁判所の決定を連邦最高裁判所に上告する法的根拠がWAラグビー協会にあるかも精査するなど、同氏に手を緩める様子はまったくない。
フォース向けのインフラ整備に多額の投資を続けたWA州のマーク・マクゴーワン州知事もフォレスト氏の新リーグ創設案を支持し、「ARUはその結果に苦しめばいい。我々は彼らのために尽くしてきたのに彼らはWA州を手荒く扱い、そしてだました。これらの見返りがあっていいはずだ」とARUをこき下ろしている。
WA州のリンダ・レイノルド上院議員もウェスタン・フォースの選手・スタッフそしてWA州民の代表として立ち上がったことで、連邦政府が介入する可能性も浮上した。
同議員は、「削減するチームをフォースと決定するにあたってのプロセスに透明性がないことから、ARU内になんらかの深い問題があることと思われる」と指摘。9月6日、フォース削減決定に関する内部調査について超党派で支持が得られているとして、オーストラリア連邦政府の上院に動議を提案した。
「西オーストラリア州の住民には説明を受ける権利があるだけではない。西オーストラリア州の納税者は少なくとも2020年までは州内にチームがあると信じて、フォースに1億2000万ドルを払ってきたという事実がある。選手たちの情熱だけでなく、選手たちのキャリア、そして彼らの家族の生計もかかったことだ」とし、調査の必要性を説いている。
ワラビーズ(オーストラリア代表)が9月9日に挑む南アフリカ代表戦の舞台は、こともあろうにフォースが本拠地としてきたWA州パースにあるnibスタジアムだ。
ARUがWA州と敵対しあう最悪の状態で迎えるこの試合には、「ARUにカネを払いたくない」として多くのファンがボイコットするとしている。WAラグビー協会のハンス・サワー会長が、南アフリカ人がパースに多く住んでいるという土地柄上、大勢のファンがボイコットしてもスタジアムは満員になると予想した上で、「ワラビーズにとってはアウェイ戦同様だろうね。スタンドに黄色のジャージーを着た観客を目にすることはあまりないはずだ。我が国のラグビー協会が我々にそうするように仕向けたんだからね」と皮肉たっぷりにコメントしたように、通常なら南アフリカを迎えるには格好の会場が異様な雰囲気に包まれるのは必至だ。
ワラビーズのマイケル・チェイカ ヘッドコーチは「我々は代表チームであり、オーストラリア人だ。そしてウェスタン・フォースのサポーターのみんなもオーストラリア人だ。代表チームにはフォースの選手もいる。今回の件についてはあまりにもダメージが激しく、正しい答えは引き出せないと思う。そのような中、我々ができることといえばパースの観客の前でとてもいいプレーをし、どれだけこの会場でプレーすることを熱望していたかを示すことだ」と述べ、この一戦を通じて国としてひとつになることの重要性を力説した。
(文/飯田裕子)