国内
2017.08.05
開幕新人スタメンあるか? 中尾隼太、東芝復権へ「未来はいまの頑張りに…」
東芝の落ち着いた新人が試合を引き締めた。
タックルとその後の素早い規律で防御網を支え、攻めてはキック捕球後などのアンストラクチャー(セットプレーを介さない場面)時のランで再三、チャンスメイク。本人は落ち着いて、こう振り返った。
「自分がチームのことをいうのもあれなのですが…。ディフェンスで最後までゴールラインを割らせず、全員がプライドを持ってやれたと思います」
8月4日、本拠地の東京・府中グラウンドでのトレーニングマッチ。前年度の15人制の国内タイトルを完全制覇したサントリーに24−0で勝った。インサイドCTBとしてフル出場した中尾隼太は、八面六臂の活躍を示した。
日本代表のFLである?永祥尭は「あのサイズでディフェンスのレンジが広い。アタックも落ち着いている。新人とは思えない」と感嘆。今年就任した廣瀬俊朗BKコーチも、「めちゃくちゃ、よくないですか? いま、イチ押しです。すごく一生懸命にやってくれる。そこがいいですね」と話す。元日本代表主将の廣瀬は、試合中のあるシーンにも感銘を受けたという。
グラウンド中盤で攻守逆転が起こるや、味方から球を受け取った中尾は奥のスペースへキックを放った。急に手元へ来たボールをベストな場所に配した動きを、廣瀬はこう振り返った。
「冷静にやってくれましたよね。キックを裏へ出してくれて、FWに楽をさせてあげたり。いい判断でした」
身長176センチ、体重86キロの中尾は、長崎北陽台高を経て鹿児島大入り。九州学生リーグ1部に参戦して楕円球を追いながら、教師の道を目指した。ラグビー部の指導に関わりやすい高校体育教諭のみならず、小学校教諭の免許も取得。教育実習でオルガンを弾いたことのあるトップリーガーとは、実に珍しい。
「教育学、保健体育の概論、衛生学などを勉強していました。あとは小学校の教育実習で音楽や国語の授業をしたり…」
選手としては全国レベルの経験と縁が遠かったものの、「去年の4月に九州代表と同大の試合があって、そこに出たらいろんなチームの方に声をかけてもらって」。高校時代の品川英貴監督もプレーした東芝へ進み、国内最高峰のトップリーグへ挑むこととなった。
「高校の恩師も東芝に入った後に教員になった。ここへ来ない道はないと、東芝に入りました。明らかに環境は変わるし、自分にとっての試練もあるだろうとも思いました。ただ、それよりもここで成長したい、ここでラグビーがしたい、上手になりたいという気持ちのほうが強かった」
大学4年時は、7人制日本代表としてセブンズワールドシリーズのドバイ大会に出場。貴重な体験を積んできた。春からは東芝で、7季ぶりに復帰した瀬川智広新監督のもとハードワークを重ねる。
「自分の役割はオーガナイズ。見て、判断して、ということは意識しています。目標は東芝で試合に出ることです。大きなことは言わないタイプ。一つひとつ頑張って、5年後、10年後、どうなるか…。未来はいまの頑張りにかかっていると思います」
チームは過去5回優勝も前年度は9位に終わっただけに、新体制のもと再起を誓う。8月19日、東京・秩父宮ラグビー場でNECに挑む開幕節。教員志望の落ち着いた挑戦者が、復権へのタクトを振るか。
(文:向 風見也)