国内
2017.05.28
至高のエリア合戦。帝京大、前年度ファイナルと同カードで東海大に粘り勝ち。
昨季の全国大学選手権決勝と同カードとなった80分は、ファンの期待に応える接戦となった。
5月28日に山梨・中銀スタジアムでおこなわれた、関東大学ラグビー春季大会・Aグループの一戦である。
まずは全国準優勝に終わった東海大が前半を18点リードで折り返すも、8連覇中の帝京大が陣地獲得の妙で勝ち越し。最大点差を10点差とし、最後は31−28で競り勝った。勝ったHOの堀越康介主将は、安どの顔つきだ。
「どちらが根気強くバトルできるかという試合だと思っていました。そこで少し上手になったのが、勝利につながったと思います」
1月9日の前年度ファイナルは、帝京大が東海大を33−26と制していた(東京・秩父宮ラグビー場)。当時のクロスゲームを支えたフィジカルバトルはこの日も担保される。
まず場内を沸かせたのは東海大だ。
グラウンド中盤でキックを確保すると、左端で球をもらったWTBの平尾充織が帝京大防御網のひずみを切り裂く。攻撃は22メートル線付近で右へと連なり、最後は密集近辺の穴をSHの橋本法史が突いた。直後のゴールキック成功で、スコアは3−7となった。
東海大は21分に帝京大の落球をきっかけとし、34分にはFW陣の単騎での突破を重ね、得点を積み上げた。さらに防御でも魅す。
29分頃、36分頃と続けて、NO8のテビタ・タタフが接点で相手の球にかぶりつく。帝京大のノット・リリース・ザ・ボール(寝たまま球を手放さない反則)を引き起こし、試合を引き締めた。
得点板が「3−21」と光ってハーフタイム。帝京大陣営はしかし、冷静だった。
岩出雅之監督は、ロッカールームで「直せるポイントだけ直していこう。直せないところは迷うな」と声掛け。戦況に基づき、「コミュニケーション」「ブレイクダウン(接点)への入り負け」という修正ポイントを共有した。特に2つめの要素には、こう言葉を足した。
「そこで戦わなかったら、(東海大の)反則も生まれない」
我慢合戦における一気のスパートを得意とする常勝軍団は、ここからギアを入れる。
後半3分には接点で東海大のオーバー・ザ・トップ(ボールを覆い隠す反則)を、続く7分には左右への素早い展開によりラインオフサイド(攻防の境界線より前でプレーする反則)をそれぞれ誘発。いずれの場面でも、ラインアウトからのモールでインゴールへ迫り、HOの堀越主将がとどめを刺した。
あっという間に17−21と追い上げた帝京大は、19分にも東海大の反則をきっかけに敵陣深い位置へ突入。ゴール前右の相手スクラムからもペナルティを誘う。一気に左へボールをつなぐと、WTBの竹山晃暉が勝ち越しトライを決めた。自らゴールキックも決め、24−21。
風上の後半にキックを活用した帝京大がその凄みを示したのは、後半29分だった。
自陣中盤スクラム右脇からSHの小畑健太郎が低い弾道を放つと、互いの蹴り合いが始まる。敵陣22メートル線付近で東海大のFB、野口竜司主将が捕球して蹴り返すと、今度は自陣で帝京大が足で返球。その間、帝京大は弾道を追うチェイスラインを整えている。
それに対し、22メートル線付近の東海大の選手が、少し駆け上がって、楕円球を蹴った。弾道は、短かった。刹那、野口主将は心で天を仰いだか。
チャンスボールをハーフ線エリアで胸元に収めたのは、FBの尾?晟也副将だった。目の前の東海大のチェイスラインに凸凹があると見て、鋭く駆け出す。最後はサポートに入った竹山につなぎ、決定的な追加点が刻まれた。31−21。
尾?副将はこうだ。
「後半はカウンターアタックを狙っていて、そこに相手のミスキックも重なり…。こちら側としては、蹴り返してくることを想定してプレッシャーをかけて、蹴り返された球をアタックすることを考えていました。相手のミスキックがあった時、目の前のチェイスラインにもギャップがあって。そこを、うまくつけたかな、と」
野口主将も潔かった。
「僕自身は、風下で22メートルエリア付近に(何度も)キックを入れられていて、もうタッチへ蹴り出すかと思ったんですが…。そのキックも風に負けて、手前に落ちるものだった。修正ポイントとしては、(蹴り合う際の)意思統一と、クオリティを上げること」
ボールを持たぬ選手がずっと組織を保てたか否か。それが決定打となったか。
1年時からエース格の竹山はこの午後2トライを挙げるのみならず、この3年目の春に着任した正ゴールキッカーとしても5度の機会をすべて成功させた。「今年のチームは接戦が多くなる。仕事であるキックを正確に入れることなどを一つひとつ丁寧にやっていく」と誓う。
「一つひとつのプレーを集中してやることを、今年の目標にしています」
帝京大のインサイドCTBに入った新人のニコラス・マクカランは防御の死角で球をもらうスキルやフラットなパスをアピール。控えからレギュラーへの昇格を目指すメンバーも躍動していて、1年生FLの安田司は迷いなきコンタクトで、PR當眞琢はスクラムで魅した。
春季大会を開幕2連勝、岩出監督は締めた。
「前半は集中力の欠いているところや個人スキルの足りないところで、やらなくてもいいトライを与えていた。ただ、ハーフタイムにアドバイスしたことを一つひとつきちっとやっていた。今年のチームも、ポテンシャルはあるかな…と」
一方、敗れた木村季由監督は「帝京大が後半にギアを上げるのがわかっていたのに、こちらにネガティブなプレーが続いた。消せる反則が多すぎる」と両軍の集中力の差を問題視。とはいえコンタクトについては、「戦える感触を持っている」と手ごたえをつかむ。
川瀬大輝、テトゥヒ・ロバーツの両LOは突進役、モールの柱として機能。春に若手中心の日本代表へ呼ばれたCTBの鹿尾貫太も、空間を切り裂くランを披露した。春季大会はここで2勝1敗となるも、指揮官はどうにか前を向く。
「今年のチームは今年のチームで経験を積み重ねてゆくしかない。学ぶべきところはたくさんあった」
今季の覇権争いの先頭集団は、この先も鍛錬を重ねる。
(文:向 風見也)