コラム
2017.05.16
最下位からの挑戦―関西大が法政大との定期戦を制する―
ボールをキープする関西大CTBの山縣翔。駆け寄るのはFB正木航平。ともに東福岡高出身
「ラグビーはタックルだ!」
こう叫んだのは摂南大総監督の河瀬泰治である。1980年代、日本代表NO8として、かかって来る者をはね飛ばした。現役時代、攻撃的選手だったからこそ、受けた痛み、そして守りの大切さをかみしめている。
同じ関西大学Aリーグに所属する関西大は、その言葉を真理としてとらえた。
5月14日、87回を迎えた法政大との定期戦では36−31と勝利を収める。
大阪府吹田市にある関西大中央グラウンドでは歓喜の声と拍手がこだました。
試合を決めたシーンは24−24で迎えた後半32分にあった。
3年生CTBの山縣翔が、紺白の槍となって突き刺さる。ターゲットは青橙のCTB呉洸太(お・ぐぁんて)。危機を察知した呉は、手首だけでより速く放れるハンズのパスに切り替える。一瞬早くクラッシュ。楕円球は外側に乱れ、関西大は自陣でターンオーバーをもぎ取る。
最後はFB正木航平が法政大のトライラインを駆け抜けた。
ゴールキックが決まり、7点差がつく。
山縣はうれしそうに目を細める。
「あれはよかったです。今、カンダイはバリつめる練習をしているので、それで前に出られたと思います」
山縣はビッグタックルを連発する。
2分後の同34分、今度はWTBジョーンズ杏人竜(あんどりゅう)の下半身に頭から行った。パスが浮いた不利もあって、169センチが、父がカナダ人のハーフの181センチを仰向けに打ち倒す。
ハーフウェイ付近でボールを再確保。FL三井利晃がインゴール左隅に飛び込んだ。
36−24。勝利を確実にする。
山縣の笑顔は続く。
「僕は体がないんで、相手の外側から一気に距離をつめて、死角を狙っています」
捕球者は飛んで来るボールを見るため、顔は基本的に内を向く。その視認ができていない状況でコンタクトができれば、心身ともに相手に与えるダメージはより大きくなる。
山縣は東福岡出身の3年。高3時の2014年度には「高校3冠」(選抜、7人制、全国大会)を達成した。花園では5試合中3試合に先発する。自分なりの理論を備える。
ヘッドコーチの園田晃将もにこやかだった。
「今日はすごかったですね。よかった」
そして、山縣のタックルを解説する。
「先週くらいからディフェンスを前に飛び出すようにさせました。これまでは前に出て、見て、セカンドダッシュ。タッチラインで数を合わせる形でした。しかし、この形ではウチは体が小さい分、どうしても食い込まれて、ボールを生かされてしまう。だから、とりあえず飛び出してみろ、と言いました」
指導者の考えが結果に結びついた。
勝ちを呼び込んだのは、ただのシステム変更だけではない。ラグビーでは不可欠な格闘技的要素が強化された一面もある。
大学職員でもある監督の桑原久佳は語る。
「今年から、大学がラグビーとアメフットの2クラブのために、S&Cコーチを雇ってくれました。その部分は大きいですね」
今年度から加入したのは佐名木宗貴。昨年度はトヨタ自動車ヴェルブリッツで選手たちの体作りを引き受けた。
山縣は効果を口にする。
「佐名木さんが来て、僕は初めて負荷の軽いもので回数をこなすトレーニングをしました。ゴムバンドを使った、バンドベンチなんかです。最初は『こんなん意味あるんかな』と思っていたけど、ベンチプレスの最高は100から110キロに上がりました。小さい筋肉を鍛える大切さがわかりました」
アフターマッチファンクションでは、串カツやイカリングの多くは手つかずだった。筋肉質の体を作るため、空腹にも関わらず、揚げ物は避けた。トップボディビルダーでもある佐名木の教えは食事にも浸透している。
ただ、法政大に辛勝したとはいえ、それで秋本番の展望が一気に開けた訳ではない。
法政大は昨年、関東大学リーグ戦1部7位。入替戦に出場した。
かたや関西大も同じである。
昨年の関西大学Aリーグは1勝6敗。関西学院大、摂南大と3校間の得失点差で最下位の8位になった。入替戦は大阪体育大に10−10と引き分ける。上位リーグ所属のため、リーグ規約に守られて、残留できたのが実情だ。
関西大のAリーグ復帰は2012年秋の入替戦。1981年以来31年ぶりだった。しかし、2013年のわずか1シーズンで再びB降格。1シーズンで再昇格したが、2015年は4位、そして8位とまだ安定感はない。
「去年は実力のないチームじゃなかったけれど、学生たちを引き上げてやれませんでした」
桑原が持ち続ける反省が、どこまで形になるか。秋シーズン初戦の相手は昨年度1位の天理大。「この時期にすでにでき上がっている」と桑原が評すチームに、4月30日のオープン戦では7−96と大敗した。
まだまだ、やるべきことは山積みしている。
(文:鎮 勝也)