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2017.05.12
<不定期連載 壁を打ち破れ!〜サンウルブズの挑戦> 上野裕一ジャパンエスアール会長が考える日本ラグビー未来像? 「“プール欧州”入りした2019年ワールドカップでのジャパン。サンウルブズもSANZAARに止まらない北半球との戦いも模索していきます」
トップ14の強豪トゥールーズのアカデミーに所属した経験を持つ
サンウルブズのFB松島幸太朗もフランスラグビーを知るひとり(撮影:出村謙知)
5月10日にラグビーワールドカップ2019のプール分けドローがあり、開催国である日本は、アイルランド、スコットランド、欧州予選1位、そして欧州予選2位対オセアニア予選3位のプレーオフ勝者の4チームと同じA組で、プール戦を戦うことになりました。
4つの対戦相手のうち3チームは欧州勢で確定。さらに、もうひとつも欧州第2代表になる可能性もあるという、実にヨーロピアンな組で日本は地元開催ワールドカップを迎えます。
ちょうど私自身も、4月から5月にかけて、フランスとイタリアへ行く機会が続いたこともあり、今回はこれまでのSANZAAR中心から、視点を北半球にも向けて話をしていこうと思います。
すでにこの連載でも紹介してきたとおり、もともとサンウルブズというのは、2019年ワールドカップに向けた日本代表強化を最大の目的として生まれたチームです。
なかなか思うようには組めない日本代表のテストマッチを補うかたちで、代表クラスの選手たちにテストマッチに匹敵するスタンダードの試合を経験してもらうことで成長を促し、日本代表のレベルアップにつなげていく。その舞台装置として、スーパーラグビーはまさにうってつけだったわけです。
今季は国内2戦目のブルズ戦で早くも勝利を記録し(21−20/4月8日)、第8節から4戦続いた“死のロード”でも、残念ながら全敗に終わったものの、チーフス戦、ジャガーズ戦でボーナスポイントを獲得するなど、確実に成長している姿はニュージーランド各地、そしてアルゼンチンでも印象付けられたと思っています。
前回も触れたとおり、SANZAAR側の我々の実力に対する設定目標も昨季の「コンペティティブ」から今季は「エリジブル」に格上げされ、来季15チームへ削減される方針が決定される中でも、サンウルブズをその対象すべしというような意見は皆無でした。
間違いなく、南半球の強豪との厳しい戦いを続けていく中で競争力を高めているサンウルブズですが、その一方でグローバルな視点で日本ラグビーを語るなら、SANZAARとのやりとりだけでは、十分とは言えないのは事実です。
今回のドローでも、イングランドとアイルランドがニュージーランドとオーストラリアとともに最高シードであるバンド1と評価され、続くバンド2は南アフリカ以外はスコットランド、フランス、ウェールズの欧州勢で占められたように、SANZARとともに旧5か国対抗組が世界のラグビーを先導してきたのは紛れもない事実でしょう。いや、主流という意味では、南半球勢ではなく、欧州勢が中心を担ってきた。
日本代表強化につながる組織︎であるサンウルブズですが、あくまでも運営自体はプロフェッショナルなかたちで行われています。しかも、日本ベースの単体プロフェッショナルスポーツチームとして世界最高峰の国際リーグへ参戦するという、これまで誰もしたことのない挑戦を続けている。
そんなふうに、世界で唯一の存在と言っていい我々に対する関心は実は欧州でも非常に高い。それは、今回、フランス、イタリアを訪れてみて、改めて感じたことでもあります。
中でもフランスのトップ14は、一国のラグビーコンペティションとしては最も豊かなリーグです。
多くの南半球出身のスター選手たちがプレーしていますし、表面的なラグビースタイル自体は日本が参考にする点はそう多くないかもしれませんが、たとえばヤマハ発動機ジュビロがフランス遠征を続けて成功したように、FW強化という意味では、学ぶべき点が多いのも間違いない。
私自身、フランス協会からの招待を受けて、今季のトップ14のファイナルが行われる6月初旬にフランスを再訪する予定なのですが、そのトップ14のファイナルは常に8万人収容のスタジアム(スタッド・ド・フランス=81,338人収容)が満員になるほどの人気を誇っている。
これまで、古くは村田亙、吉田義人、斉藤祐也、大畑大介などの日本ラグビーのレジェンドたち、最近でも五郎丸歩など、選手単体でのフランスラグビーへのチャレンジはありました。
ただ、日本ラグビー全体としては、非英語圏という事実も影響してか、独自のラグビー文化を作り上げてきたフランスに対して積極的なアプローチはしてきたとは言い難い。
アイルランド、スコットランドなどと同じA組を勝ち抜き、日本代表がベスト8入りしたなら、2019年に向けたサンウルブズのキャンペーンは成功したことになるでしょう。
ただし、それで終わりではない。
むしろ、プロフェッショナルなスポーツチームとして世界でチャレンジし始めた我々としては、その先も見据えて施策を打っていく必要がある。
その意味で、欧州はひとつの大きなターゲットになると思っています。
すでに、先方からもいろいろなオファーがあるのも事実ですし、正直言うならSANZAARとの付き合いだけでは、財源的なポテンシャルという意味では限りがあるのも事実です。
プロフェッショナルな団体である以上、可能性を秘める新たなマーケットにアプローチしていくのは当然ですし、それが日本ラグビーの発展につながればいい。
ワールドカップというお祭りが、日本のラグビーの将来にとって何らプラスにならないのでは、いろんなリスクを承知で日本開催にこぎつけた意味がない。
ワールドカップがゴールなのではなく、祭りの後こそが重要なのは言うまでもないでしょう。
ワールドカップを負の遺産にしないための方策を考えて実行していくのも、プロフェッショナルラグビーチームとしての我々の役割でもある。
たとえば、フランスの関係者からはトップ14のチームとサンウルブズのプレシーズンマッチをやろうという話は当然のようにありますし、ゆくゆくはサッカーのトヨタカップのようなクラブワールドカップを日本で開催したいと考えるのも決して夢物語ではないとも思っています。
代表チームに関しては、我々の範疇を超える話にはなりますが、フランスやイタリアの関係者の間には日本を6か国対抗に加える可能性を真剣に語ってくれる人たちも存在します。
もちろん、新たなチャレンジには困難がつきまといます。
それでも、正しいと信じる目標に向かって挑戦し続ければ、壁は崩れていき始めますし、時折、神風としか言いようのない現象が味方をしてくれることもあります。
昨季の開幕ゲームでのファンのみなさんの熱い声援と選手たちのがんばり、そしてジャガーズ戦での勝利。ファンのみなさんの遠吠えコールが一部ではブーイングとみなされたりもしましたが、前述した今季のブルズに対する劇的な勝利も忘れられないエポックメイキングな出来事となりました。
奇しくも2019年ワールドカップで欧州勢とばかり対戦することになったのも、何かの啓示かもしれません。
ファンの方々の欧州ラグビーへの関心もいままで以上に強くなっていくことでしょう。
そんなファンのみなさんの要望にもお応えするかたちで、我々はプロフェッショナルなラグビーチームとして、これまでのSANZAARとの付き合いも大事にしながら、北半球での戦いも視野に入れた方向性も模索していかないといけないですし、そう遠くない将来、実現にこぎつけるべく新たな動きを加速させていくつもりです。
<プロフィール>
上野裕一(うえの ゆういち)
ビジョンは I contribute to the world peace through the development of rugby.
1961年、山梨県出身。県立日川高校、日本体育大学出身。現役時代のポジションはSO。
同大大学院終了。オタゴ大客員研究員。流通経済大教授、同大ラグビー部監督、同CEOなどを歴任後、現在は同大学長補佐。在任中に弘前大学大学院医学研究科にて医学博士取得。
一般社団法人 ジャパンエスアール会長。アジア地域出身者では2人しかいないワールドラグビー「マスタートレーナー」(指導者養成者としての最高資格)も有する。
『ラグビー観戦メソッド 3つの遊びでスッキリわかる』(叢文社)など著書、共著、監修本など多数。