海外 2017.04.09

多彩なキックを駆使。敵将も称えたサンウルブズ初勝利。

多彩なキックを駆使。敵将も称えたサンウルブズ初勝利。
歓喜のサンウルブズ。うなだれるブルズ。(撮影/矢野寿明)
 ブルズを率いるHOアドリアーン・ストラウス主将。日本代表が大金星を挙げた2015年ワールドカップ(W杯)南アフリカ戦で、後半13分から途中出場し、“W杯史上最大の番狂わせ”を敗者の側で味わっている。
 あの日から約1年7か月。
 今度はスーパーラグビーの舞台で、日本チーム・サンウルブズの今季初勝利を目の当たりにすることとなった。
 南アフリカ代表66キャップの名HOは、敗戦後の会見で、「まずサンウルブズとチームの関係者に、素晴らしい勝利だったとお伝えしたいです」とあいさつしてから、先発フル出場した80分間を振り返った。
「私も含めて一人ひとりが受けに回ってしまい、それがチーム全体に蔓延してしまいました。結局のところ、80分間のほとんどをサンウルブズに良い試合運びをされてしまいました。テクニックも素晴らしかったですし、フィジカルでも我々に勝る場面があったと思います」
 4月9日、開幕5連敗中だったサンウルブズは、曇天の東京・秩父宮ラグビー場で、1勝4敗のブルズを21−20で下して今季初勝利。後半34分、SO田村優がPGを決めて逆転に成功。出足の鋭いディフェンスを続けて1点のリードを守りきり、サクラの咲いた秩父宮で凱歌を上げた。
 ブルズのストラウス主将が称えたサンウルブズの試合運び。
 勝利をもぎ獲った狼軍団はこの日、前後半ともに戦略的なキックを使うなどして、試合を有利に進めた。
 
 コーチ陣のひとりである田邉淳アタックコーチは、前半のキック戦術について、「ハイボールを上げてフィフティー・フィフティーの状況を作るところが非常によくできました」。
 この日は課題だったキックチェイスも改善した。
 手応えを語ったのは、タックルの矢を放ち続けた先発PR山路泰生だ。
「ボールがない時(キックチェイス時)に力を抜いちゃうと、やられちゃうので。今日はそこで止められたことが良かったのかなと」
 
 前半はSOヘイデン・クリップスらが長短のパントを上げた。
 しかし田邉アタックコーチはあることに気づき、ハーフタイムにキックオプションの変更を伝える。
「前半を見ていて、後ろの方にスペースがあるなと思いました。キックチェイスも良かったと思ったので、逆にロング(キック)に変えました」
 後半からは、途中出場のSO田村らがロングキックを敵陣へ蹴り込んだ。
 これまで「最後の20分に失点するところが課題だった」(フィロ・ティアティア ヘッドコーチ=HC)というサンウルブズだが、効果的なキックで疲労が軽減したこともあり、80分間ディフェンスの圧力が持続した。キックを交えた試合運びが奏功し、鬼門だった“最後の20分間”を克服。逆転勝利を呼び込んだ。
 敗軍の将となったブルズのノリス・マレーHCだが、試合後の会見では、勝利チームへの賛辞を忘れなかった。
「昨年から(サンウルブズは)グッと成長したと思います。毎週いろんなチームと戦って成長を遂げています」
 その言葉を聞いていたストラウス主将も同調した。
「(サンウルブズは)成長著しいと感じました。日本のラグビーは、試合をやるたびに成長していると思います。そんな日本ラグビーを祝福したいと思います」
 
 17−83で負けた開幕節ハリケーンズ戦。
 その試合後、サンウルブズのエドワード・カーク主将は、神妙な面持ちでこう語っていた。
「陽はまた昇ると思っています」
 曇り空の秩父宮で、ついに勝利という太陽は昇り、スタンドには眩しいほどの笑顔が溢れた。
(文/多羅正崇)

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