海外 2017.04.05

田中は改めて声出し宣言、稲垣は新スクラム手応え、大野も生き生き。

田中は改めて声出し宣言、稲垣は新スクラム手応え、大野も生き生き。
NDSキャンプで充実した表情の稲垣啓太(撮影:松本かおり)
 国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦して2季目となるサンウルブズは、4月8日、東京・秩父宮ラグビー場でブルズ(南アフリカ)との第7節に挑む。3日からは都内の辰巳の森海浜公園ラグビー練習場で、戦術の落とし込みなどをおこなっている。
 チームは目下開幕5連敗中と苦しむが、この週からは離脱していた日本代表経験者が相次ぎ合流。なかでも日本人で初めてスーパーラグビープレーヤーとなった田中史朗は、こう宣言する。
「(ここまでチームは)いい形でトライを取れていますし、レベルアップはできている。そこへもっともっと自分の経験を伝えて、よりいいチームを作りたいと思います」
 3日、味方がキックした直後の守備をチェックする練習時。選手が等間隔で並ぶべきはずの防御網に乱れが出るや、流れを止めてセッションの意図などを再確認。その後は意図するプレーが重なり、田中も「ナイスコミュニケーション!」と仲間を称えるようになった。
 前年度まで4シーズン、ハイランダーズ(ニュージーランド)でスーパーラグビーへ挑んできた身長166センチ、体重75キロの32歳。約3週間の休息を経て、SHとして今季2戦目の出場を狙う。いつものように、各人の立ち位置などを伝え合う「コミュニケーション」を大事にする。
 
「特にディフェンス。疲れたなかでもコミュニケーションを取って穴を埋め、相手の強みにはまらないようにできれば。本当に、ぎりぎりの戦いで負けているというところなので。…(グラウンドの)中からも、外からも声を出していきたい」
 翌4日、長谷川慎コーチ主導のスクラム練習があった。昨秋からジャパンにも入閣した長谷川コーチが指導に携わった結果、ここまで自軍ボール成功率100パーセントをキープしている。
 最前列両脇のPRは両足を肩幅の位置まで広げ、尻と太ももの裏側をなるたけ地面と垂直にする。いわば「壁」のようなその下半身を、後ろに入るLO、FLが地面とすれすれの位置から力強くプッシュ…。各々の姿勢が綿密に定められた組み方を、ひたすら反復する。公開された午後練習の折は、PR、HO、LOという前列5人の一部が集まり、各々のタスクを改めて整理した。
「どんどんロジカルに物事を進めています。1人ひとりの役割がそれぞれあって、それらを皆が全うすれば、カチッとはまってゆく」
 こう語るのは、左PRに入る稲垣啓太。日本代表として13キャップを誇る身長186センチ、体重116キロの26歳で、2015年度はレベルズ(オーストラリア)に加わりスーパーラグビーを味わっている。サンウルブズ加入2シーズン目の今季は、2月中旬からクラブを離れていた。昨季の国内シーズン終盤、左腕上腕の二頭筋に亀裂が入ったからだ。
 雌伏期間は元日本代表コンディショニングスタッフの佐藤義人氏のもとで身体機能を見直し、現ジャパンを支えるナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)のキャンプで復調した。
 昨秋の代表活動へも本格的には加わっていないため、今回は長谷川コーチの教えを受ける最初の機会となった。
 稲垣は、現体制下でのスクラムに早くも手ごたえをつかんだという。すべてのトレーニングを終え、こう振り返るのだ。
「回数を重ね、感覚さえつかめば、うまくはまるんじゃないでしょうか。あの(午後に5人で組んだ)スクラムにFL(最後列側面)が入ればまた変わってきますし、その変わった感覚を身につければ、『このスクラムで行ける』という新しい感覚も出てくると思います。いまは(少人数での組み込みを通し)物事を順番に確認している段階です」
 現状、実戦形式の練習時は控えに回ることもある。しかし、1分でも長い躍動も期待されていよう。
 NDSで課されたフィットネス(持久力)測定でも、常に上位で走り切っている。佐藤氏のもとでの特訓を振り返り、体調の良さをアピールする。
「正しい身体の使い方をするトレーニングをメインでやりました。ランニングフォームをひとつとっても、脚の力をうまく使えているのか、地面をちゃんと蹴れているのかといったところに着目しました。走り方を変えるだけで、自分でわかるくらいフィットネスの数値が変わっていきました。特にフィットネストレーニングをやってきたわけでもないのに…」
 日本代表として歴代最多の98キャップを誇る大野均は、3月の長期ツアーに出た仲間に感銘を受けた。
「きょう(4日)の練習の雰囲気も良かった。練習と練習の合間の移動の時にも声が出ていた。きついことを楽しくやっていて、自分も刺激を受けました」
 
 稲垣と同じくサンウルブズのオリジナルメンバーでもある大野は、身長192センチ、体重105の38歳。手の骨を折りながらリタイアしなかったこともあるなど、LOとして痛みへの耐性を示してきた。
 しかし今年は2月中旬から、怪我のためリハビリに専念した。「合流した時点で100パーセントの力でできるように…と。毎週、(チームに)状況を報告していました。NDSへ合流するという話もあったのですが、そのNDSへも100パーセント合流できないのであれば…ということでした」という。
 ここまでサンウルブズのLO勢にあっては、リアキ・モリ、サム・ワイクスといった海外出身者が各々の持ち味を発揮している。しかし、田中、稲垣と同タイミングでフィールドへ戻った通称「キンちゃん」も、橙色のファーストジャージィが欲しい。
 満を持してのカムバック。控えめな言葉に、向上心をまぶす。
「サンウルブズが切磋琢磨することで試合に出るメンバーのレベルが高まるのであれば、自分も嬉しいです。また、自分もそのメンバーに負けないようにして、上に行きたいなと思います」
 ブルズ戦のメンバーは6日、発表予定。豊富な選択肢が与えられたなか、フィロ・ティアティア ヘッドコーチは誰に勝負を任せるか。
(文:向 風見也)

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