海外 2017.02.28

昨季王者相手にスクラムで優勢。サンウルブズ開幕戦スクラム・ドキュメント。

昨季王者相手にスクラムで優勢。サンウルブズ開幕戦スクラム・ドキュメント。
ハリケーンズとスクラムを組むサンウルブズのPR伊藤平一郎、HO堀江翔太ら(撮影:松本かおり)
 南半球最高峰リーグ「スーパーラグビー」参戦2年目の日本チーム・サンウルブズは、2月25日、東京・秩父宮ラグビー場で昨季王者のハリケーンズ(ニュージーランド)との開幕戦に臨み、17−83で敗れた。
 83失点はチーム史上ワースト2番目の大敗だが、昨季と比べてセットプレーは安定。ラインアウトは17本中15本成功、特に計10本あったスクラム(前半6本、後半4本)は終始優勢だった。果たして、昨季チャンピオンとのスクラム戦でフロントローは何を見、何を感じたのか。
 右PRで先発した伊藤平一郎は、ファーストスクラムで「イケる」と思った。
 前半3分、自陣10メートル付近左のマイボールスクラム。組み直しのあと、スクラム右側のPR伊藤が、グイと前に出た。オープン側にいた相手FLアーディー・サヴェアの離脱が遅れる。昨季主将のHO堀江翔太も、「良いプレッシャーをかけられたかなと思います」。
 続けて5分、敵陣22メートル付近で相手ボールスクラム。ハリケーンズFWが耐えた。
 3本目は25分、LOリアキ・モリの突進がパイルアップとなって、敵陣ゴール前左でマイボールスクラム。スタンドからの“遠吠えエール”のなか、ハリケーンズのプッシュを耐え切ると、逆に押し込んだ。
 PR伊藤は、後方からのLOサム・ワイクスの“押し”が頼もしかった。
「押しは良かったですよ。まだまだこんなものじゃないと思うので、まだ伸びると思います」
 4本目は30分、敵陣ゴール前右で相手ボールスクラム。ハリケーンズがボールを確保した。
 先発フロントロー3人の平均体重はサンウルブズが334キロ、ハリケーンズが353キロで、約20キロ差。しかしFW8人の平均体重では882キロと892キロで、体重差は10キロに縮まる。
 エリア中央で組まれた35分のスクラム(5本目)で、マイボールのハリケーンズは押し込む様子を見せた。が、8人一体となった狼軍団のスクラムは動かない。
 6本目は敵陣10メートル付近右の相手ボールスクラム。8人で半歩、前に出た。
 昨季はスクラムコーチが不在で、選手間で試行錯誤した。しかし今季からヤマハ発動機で強力スクラムを築いた専門家、元日本代表の長谷川慎コーチが指導。昨季の苦労を知るPR浅原拓真も、「今年はスクラムがすごく整備された」と充実を口にする。
 5−64と昨季王者ハリケーンズがリードして迎えた後半9分、そのPR浅原がピッチに投入。「バズ」の愛称を持つ29歳は、替わったPR伊藤から手応えを伝え聞いた。
「前半の伊藤平一(郎)が『イケる』と言っていたので、感触が良いのかなと思って組んでみたら、やっぱりいい感じに組めました」
 19分、HO日野剛志と共に投入された左PR山本幸輝も、交替したPR三上正貴から助言を受けた。
「三上さんからアドバイスをもらっていて、『相手が内に来ようとしている』と言われたので、そこを意識してやりました」
 
 後半最初のスクラム(7本目)は、5−83の大量ビハインドで迎えた25分。CTBデレック・カーペンターの猛タックルを受け、途中出場のSOボーデン・バレットがノックオン。生まれた自陣22メートル手前のマイボールスクラムで、サンウルブズFWは“歩いた”。
 16本の脚を持つ塊が、ずんずんずんと前進していく。
 左PRの山本は、手応えをつかんだ。
「スクラムを組んで『今日はイケる、イケない』ということを感じる部分はあります。僕は(交替後に)1本目で押せたので、いい入りができました」。
 そして迎えた、試合終了5分前だった。
 FL金正奎の1トライで5点を返した35分、相手ゴール前右で得たペナルティ。サンウルブズは、スクラムを選択した。スタンドからの大歓声に、FW8人が体を震わせる。83失点という屈辱のなかで、いつしか狼軍団はスクラムという武器を握っていた。
 直前のプレーで、LOマイケル・ファティアロファがシンビン。14人となったハリケーンズは6人でスクラム戦へ挑んだ。そしてサンウルブズFWは8人 vs.6人の闘いを確実に制し、ペナルティを獲得。
 再度サンウルブズがスクラムを選択すると、ハリケーンズは急きょ、WTBジュリアン・サヴェアを左FLの位置に入れて7人態勢へ。
 迎えたこの日9度目のスクラムは、押せなかった。
 HO日野はこの時、トイメンのニュージーランド代表HOデイン・コールズの迫力を感じた。
「変えてきたと思うんですよね。低めに組むとか、脚を絶対に下げないようにするとか。後ろの人への働きかけとか、そういうコミュニケーションもありました。『次は絶対に押されない』というプライドを感じました」
 右PRの浅原は、プロップならではの感覚を明かした。
「向こうがホールドしてきました。ホールドする“技”というか、脚伸ばしてグーッとやる方法があるんですよ」
 それでも自信は手にした。
 後半39分、この日最後のスクラム(10本目)は、自陣10メートル付近中央で迎えた相手ボールスクラムだった。ふたたび6人で臨んできた相手を、粉砕した。
 ただ、2013年にレベルズ(オーストラリア)でスーパーラグビーデビューの先発HO堀江は、この日のスクラム戦についても、いたって冷静だった。
「そこ(スクラム)にかけてないんじゃないですか、彼らは。ボールを出せばいいと思っている。昔からニュージーランドはそうなので」
 PR浅原も同意見だ。
「正直、ニュージーランドのチームって、スクラムにあんまり重きを置いていないところがあるので。南アのチームはすごくスクラムにこだわるので、そういうところと戦いたいですね」
 サンウルブズの次戦は3月4日、シンガポールでキングズ(南アフリカ)と第2節を戦う。その後は、第6節のBYE(休みの週)まで、スクラム強国・南アフリカ勢との3連戦が待っている。
 28日、シンガポール遠征のメンバーが発表され、この日出場のフロントローは、全員が名を連ねた。
 先発PR伊藤は、南アフリカ勢との対決を心待ちにしている。
「スクラムが強い国なので、負けたくないですね」
 メイド・イン・ジャパンのスクラムが世界に挑む。真価が問われるのはこれからだ。
(文/多羅正崇)

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