国内 2017.01.03

「最弱」からのスタート。日本航空石川が辿り着いた晴れ舞台。

「最弱」からのスタート。日本航空石川が辿り着いた晴れ舞台。
最後まで成長し続けたチームだった、写真は日本航空石川SH藤原忍。(撮影/松本かおり)
 周囲から「最弱」とからかわれていた。
 日本航空石川(石川)の主将を務めるHO藤巻維吹(3年)は、当時を笑顔で振り返る。
「同期部員がトンガの子を入れて10人しかいなくて、スクール選抜も少なくて。1年生の時は『最弱や』と言われたりもしました」
 きっと冗談だった。それでもSH藤原忍(3年)は、心に決めた。
「(最弱と)言われていたので、『強くなったろう』という気持ちはめっちゃ強かったです」
 2017年元日、第96回高校ラグビー大会の3回戦。第1グラウンドの第4試合では、Bシードの常翔学園(大阪第2)が日本航空石川のチャレンジを40−34で退けた。両チームが6トライずつを挙げる接戦を、コンバージョンの成功数(6本中5本成功)で逃げ切った。2012年度以来4大会ぶりの優勝を目指す常翔学園は、1月3日の準々決勝で桐蔭学園(神奈川)と激突する。
 序盤は常翔学園のペースだった。
 前半1分、常翔学園はFL肘井洲大(3年)主将のオフロードパスを受けて、LOファイアラガ 望サムエル(3年)が抜け出して先制。5分にはFB池島龍門(3年)の独走から、FL石田吉平(1年)が右中間にスコアして14−0とした。
 約5分間で失2トライ――。
 日本航空石川は、この日先発した6人の3年生で、チームに活を入れた。
「2トライを取られて落ち込んだ部分はあったんですけど、3年生全員が『みんなでやろう』と声を掛けてくれました。『諦めたら絶対に勝たれへんから、諦めずに、ひたむきに、一生懸命最後まで』と」(HO藤巻主将)
 HO藤巻主将と3年生を中心にチームは結束していた。前半20分、30分にさらにトライを奪われたが、14分、27分にSH藤原(3年)が挙げた技アリの2トライで食らいつき、26−10で前半を折り返す。
 迎えた後半、スクラムからのサインプレーが冴え渡った。
 後半1分に相手ラインアウトのスティールからFB江本洸志(2年)がスコアラーになると、圧巻は、その後のスクラムを起点とする3本のトライだった。
「きょうはサインプレーが見事にハマりました。1年間やってきたことが全部集約して出せたので、私としても本当に嬉しいです。彼ら(選手たち)もやっていて手応えがあったと思います」(日本航空石川・小林学監督)
 15分にはFB江本(2年)が、直後の18分にはWTB清水夏樹(3年)がフィニッシャーとなり、11点ビハインド(40−29)で迎えた30分にはWTBシオサイア フィフィタ(3年)が豪快な突進からトライラインを割った。すべてが、スクラムのサインプレーから始まる鮮烈なトライだった。
 しかし6点ビハインドのロスタイムに自陣でボールを失って、40−34でノーサイド。チーム史上初の8強進出はならなかったが、2007年度以来の3回戦進出という爪あとは残した。
 引退する3年生について、小林監督は「10人しかいない学年でした。入ってきた時は『最弱の年』と言われていたようですけど、彼らもそれで奮起して、ここまで引き上げてくれたので、本当に感謝しています」。
 言われた当時は悔しくて、練習後、1年生だけでよく居残り練習をしていた。軽い練習ではなかった。留学生のフィフィタをもちろん交えて、「主にタックル練習」(SH藤原)を自分たちに課した。――あの日々は元日の晴れ舞台へ続いていた。
 この日はディフェンスと正確なスローイングで魅せたHO藤巻主将。卒業後は家業を継ぐため専門学校へ進み、調理師免許の取得を目指す。「負ければラグビー人生が終わり」(HO藤巻主将)と意気込んで臨んだ花園で、大会3勝を挙げ、チーム史上最高の戦績に並んでみせた。
 小林監督が「本当に男気のある子」と評するキャプテンの表情に、試合後、悲壮感はなかった。
  HO藤巻主将は、ぶ厚い胸を張った。
「皆、ひたむきに一生懸命、ラグビーに取り組んできました。練習が終わってからも1年生だけで練習をしたり、そういう日々の積み重ねで、ここまで来られたかなと思います。史上最強のチームだと思います。本当に、いいチームです」
(文/多羅正崇)

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