国内 2016.12.30

親子で残した財産。若狭東の温かいホーム。

親子で残した財産。若狭東の温かいホーム。
完敗も、先制点を奪うなど力を出し切った若狭東。(撮影/松本かおり)
 ラグビーマガジン最新2月号の別冊付録『第96回全国高校大会完全ガイド』。
 若狭東(福井)の紹介ページに、ひときわ目を引く箇所がある。
『CTB辻井副将?の父は若狭東のPTA会長だ。行動力抜群で、地域のネットワークをフル活用し、10トントラック20台以上の砂をグラウンドに敷き詰めた。おかげで選手の擦り傷が減り、足腰も鍛錬できた』……。
 
 きっかけは、朝明高校(三重)での合宿だったという。
 息子(CTB辻井景多)の応援に駆けつけた辻井裕二さんは、天然芝や白砂など、全3面もある朝明の設備に驚いた。
「素晴らしいグラウンドで、特に砂のグラウンドが良く見えました。若狭東のグラウンドには伝統はあるんですけど、雨が降ると水たまりになったり、傷口がすぐ膿んでしまったり……」
 なにか出来ることはないか。
 さいわい、重機メーカーに勤める辻井さんには専門的な知識と技術があった。
「何とかグラウンド整備を出来ないかということで、僕らの代になった時に『グラウンド整備部』というのを部内に作らせて頂きました。PTA会長もやっていたので、関係各所にお願いして、『何とかグラウンド整備にお金を出せないか』と」
 辻井さんの情熱もさることながら、その要請に応じた学校側、保護者達の子どもへの愛情も大きかっただろう。話はまとまった。まずは「90度に曲げた16ミリの鉄筋」(辻井さん)を牽引して掘り起すところから始め、作業2年目の今年、トラック20台以上の砂を敷きつめることができた。
 当初は足が攣るなど砂地に悪戦苦闘した選手達だったが、足腰が徹底的に鍛えられた。なにより怪我が減り、傷口が膿むこともなくなった。チームの副キャプテンを務める息子からの「ありがとう」のひと言が、嬉しかった。
 
 迎えた第96回全国高校ラグビー大会。
 12月28日、第1グラウンドで対峙したのは、21年連続23回目の仙台育英(宮城)。前半2分に幸先よくラインアウトモールからNO8安藤淳がトライを挙げた。しかし仙台育英は2年生WTB大森寛治など、強力ランナーが次々と防御網を突破。1対1のフィジカルバトルに加え、チームの完成度でも上回った仙台育英が54−10で快勝。若狭東の1回戦突破はならなかった。
 試合後、若狭東の朽木雅文監督は口惜しそうだった。
「ディフェンスで粘れると思っていましたが、タックルにいっても弾かれる場面が多かったので、全国大会らしいな、と。ここへ来て、初めて経験しました」
 この日の先発メンバーは3年生が5人、2年生が10人という布陣。
 負けはしたが、2年生以下は貴重な経験を積んだ。
「2年振りなので、花園が初めての子が多かった。(来年は)花園に出てどう戦うか、というところからスタートできる。それが、3年生が残してくれた財産かなと思います」(朽木監督)
 
 その3年生の中には、辻井さんの息子のCTB辻井景多の姿もあった。
 この日、ボールキャリアーとして幾度も相手DFに突進したCTB辻井だったが、かつては左膝の膝蓋腱断裂に膝蓋骨骨折を合併する重傷を負い、復帰困難と宣告された過去がある。それでも憧れの花園で躍動することができたのは、「親のサポートのおかげ」(CTB辻井)だった。
 ジャージィ姿で涙を拭うCTB辻井へ、父・裕二さんへの思いをたずねた。溢れるものをこらえながら、息子は懸命に言葉をつむいだ。
「いつもは、厳しいオヤジなんですけど、昨日も勇気をもらえる言葉をかけてくれました。ありがとう、の一言しかないです」
  
 若狭東の後輩達には、父・裕二さんの行動力から生まれた、砂地のグラウンドが残される。
 福井の上質な砂と、子供達への愛情がいっぱいに詰まったホームグラウンドだ。
 大人達の温かいまなざしに守られながら、若狭東のラガーは未来へ育っていく。
 (文/多羅正崇)

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若狭東の応援席から見た花園第1グラウンド。熱い声援が飛んだ。
(撮影/多羅正崇)

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