国内 2016.12.28

旭川工の「初めての花園」。未来へつながる歴史的1トライ。

旭川工の「初めての花園」。未来へつながる歴史的1トライ。
旭川工業の6番、奥天滉太。歴史的な1トライを挙げ、報道陣の取材を受けた(撮影:多羅正崇)
 父母会にとっても初めての花園だった。
「ツアーを組んで、飛行機で来ました」
 旭川工業ラグビー部父母会で会長を務める天野豊秀さんは言う。
 北見北斗を下して花園初出場を決めた北北海道予選決勝はもちろん、「気の抜ける試合はひとつもなかった」(天野さん)という予選を見届けてきた。
 父母会一行が大阪に到着したのは、大会開幕前日の12月26日(月)。その日の夜には、チームが宿泊するホテルで激励会を催した。
 翌27日に挑んだ第96回全国高校ラグビー大会初日、高鍋(宮崎)との1回戦。父母会一行も「全国大会用に揃えました」(天野さん)という赤いチームコートに身を包み、声を枯らした。息子の天野拓斗がキャプテンを務めるチームは、6年連続24回目の花園出場を誇る高鍋相手に苦戦を強いられ、合計11トライを奪われた。最終スコアは5−69。しかし終了直前の後半29分には歴史的な1トライを決め、一矢報いた。
「きょうは全国でこれだけやってくれて、最後は1トライを返してくれました。選手たちに『ありがとう』という言葉しか思い浮かばないというのが、正直な気持ちです」(天野さん)
 
 同校史上初となる花園でのトライを決めたのは、FL奥天滉太。試合後、高校からラグビーを始めた努力家は、報道陣からのインタビューに応じ続けた。ときおり涙を拭いながらも、真摯に受け答えする姿は精悍だった。
「最初はバックスをやっていました。でもパスを回すよりは、体をぶつけていきたいという気持ちがあったので、2年生のはじめに監督に自分から『フォワードに行きたい』とお願いしました」
 体を張ることが好きで、進んで志願したフォワード。みずから選択した運命の先に、チーム史上初の“花園トライ”が待っていた。
 FL奥天への報道陣からの取材が終わった時、花園第3グラウンドは閑散としていた。両チームの監督、コーチ、他の選手たちも引き揚げ、いるのはFL奥天と報道陣ばかり。
 そんな状況ながら、第3グラウンドの出入場口では、父母会のメンバーら応援団が、FL奥天が出てくるのを待っていた。FL奥天が報道陣と共に姿を現すと、温かい拍手が湧き起こった。予想だにしない光景だったのかもしれない。FL奥天は涙を流し、複数の父母らと抱き合った。
 囲み取材でFL奥天はこんな思いを口にしていた。
「全国に行ったことを見て、いろんなところから部員が集まってきてほしいです。新チームは人数が足りなくて、1チームが作れない状況です。来年は1年生にたくさん入ってもらって、2チームくらい作れる状況になってくれると嬉しいです」
 仲間と一緒でなければ、見ることのできない光景がある。旭川工はその証明だ。ラグビーを始めようか迷っている若人がいるなら、この機会を逃す手はないだろう。
(文:多羅正崇)

2

試合後、外に集まっていた旭川工業ラグビー部父母会の人々(撮影:多羅正崇)

PICK UP