海外 2016.12.14

アーロン・スミスへ挑戦状も。サンウルブズ入りの内田啓介「ボス直撃」の逸話

アーロン・スミスへ挑戦状も。サンウルブズ入りの内田啓介「ボス直撃」の逸話
スーパーラグビー初挑戦となる内田啓介(右)。左は田村優(撮影:松本かおり)
 国際リーグのスーパーラグビーに参戦するサンウルブズは12月12日、発足2シーズン目となる2017年度のスコッド36名を発表した。
 都内でフィロ・ティアティア ヘッドコーチ(HC)らが会見を開き、まもなく参加選手のトークセッションが始まる。
 出席者の1人である24歳の内田啓介は、言葉を選びつつ意気込みを明かす。「素晴らしい仲間とともに、素晴らしい相手とやる。むちゃくちゃ嬉しいです」。発足初年度のサンウルブズとは契約しなかった。今度がスーパーラグビー初参戦となる。
「ファンとして観させてもらっていて、次の機会は…という気持ちがありました」
 サンウルブズ結成の大義には、日本代表強化がある。この午後の会見でも、上野裕一・業務執行理事も「ジャパンとの連携をさらに強固にしたい」と話している。
 ワールドカップ2015日本代表メンバーを10名しか揃えられぬまま開幕を迎えた前年度に比べ、今季は今年11月の日本代表メンバーが21名もリストアップされていた(負傷離脱者を含む)。サンウルブズのティアティアHCも、その秋の日本代表活動期間に参加。ジェイミー・ジョセフ現日本代表HCと時をともにしている。
 日本代表へは2012年に初選出された内田もまた、その流れのなかにいる。今秋のジャパンのツアーには、追加招集の形で帯同。この時に感じたジョセフHCの印象を「威圧感があるというか、言葉の1つひとつに力がある。一緒に話をしていても『おっ』となる」と話しているが、ボスとの邂逅(かいこう)はそれ以前にあった。
 昨季の国内シーズン終了後、所属先であるパナソニックの計らいでニュージーランドへ留学。2015年度のスーパーラグビーを制したハイランダーズへ、武者修行に出かけていた。当時このクラブで指揮を執っていたのが、次期日本代表指揮官だったジョセフHCである。
 内田にとっては、存在感を示すベストタイミングだった。遠征などで多忙なジョセフHCと話す機会は、かなり限られてはいた。それでもある日のオフ、街を歩いていた大柄な男性を内田は見つける。「ここしかない」。懐へ飛び込んだ。
 ここで確かな約束をかわしたわけでは、決してない。顔を合わせ、「代表になるには何が必要か」「どういう選手を求めるのか」を訊いただけだ。ただ、そのことが秋以降の代表入り、サンウルブズ入りとは無関係ではなかったようにも思う。
 自らの運気を手繰り寄せた行動を、このように振り返る。
「僕がたまたま街に出た時にジェイミーがいて…。自分という姿を見せられたのがよかった。パナソニックとハイランダーズ(および着任後の日本代表)が似たようなラグビーをしていたこともあり、『いまのままステップアップしてくれれば』と。そういう話ができてよかったです」
 イベント後は、記者団の取材に応じた。ジョセフHCとのエピソードもその時に明かし、海外選手の特徴についてはこう語った。
「パワーもありますけど、スキルフルでもある。『ここで、こんなことをするんだ!』という発想も…。土壇場での判断でプレーしている印象があるので、一緒にやっていて楽しいですね」
 内田の務めるSHのポジションには、4人のライバルがひしめく。パナソニックの同僚であり、ハイランダーズでも4シーズンプレーしてきた田中史朗。サンウルブズへ2季連続挑戦の茂野海人と矢富勇毅。秋の代表ツアーにも加わった小川高廣…。引き締まった体躯と当世風の顔立ちで人気の「ウッチー」に、安息の場はないだろう。
 
 本人とて、それは百も承知のことだ。
 身長179センチ、体重86キロと、5人のSHで最も大きなサイズを誇る。こうした己の特徴を踏まえ、決意を込める。
「身体、スピード、パスの長さをアピールしていけたら。それぞれ強みが違う。相手によってメンバーが変わることもあるかと思うんですが、番号(レギュラー)を獲りたいという気持ちは皆、同じです。長いスパンでライバルと一緒にいるのは、自分にとってもチームにとってもいいことだと思います」
 4月22日の第9節では、インバーカーギル(ニュージーランド)でハイランダーズとぶつかる。マイクを向けられた時には対戦したい相手の名前を挙げなかった内田だが、この第9節こそ、最も「番号」を得たい一戦のひとつだろう。実戦練習で対峙したニュージーランド代表SHのアーロン・スミスと、敵味方に分かれてぶつかれるからだ。
「いま、アーロンと試合でぶつかることが可能な状況で、それはなかなかできない経験で…」
 現実的な夢舞台が、近づいてきている。
(文:向 風見也)

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