国内 2016.11.11

帝京大×早大、「75−3」の肉声を聞く。夏苦戦した王者の大勝ちは想定内?

帝京大×早大、「75−3」の肉声を聞く。夏苦戦した王者の大勝ちは想定内?
早稲田大戦で力強く走る帝京大のHO堀越康介(撮影:松本かおり)
 今季の関東大学ラグビー対抗戦Aで最も注目されていたカードの1つ、早大戦を終え、帝京大の岩出雅之監督が記者会見場へ入室する。着席。発話。
「…あれ。雰囲気、暗いですね」
 11月6日、東京・秩父宮ラグビー場。大学選手権7連覇中の帝京大に対し、2008年度以来の頂点を目指す早大が激突した。
 大学選手権の優勝は過去最多の15回という早大は、今季、山下大悟監督が就任して「スクラム」「ブレイクダウン(接点)」「チームディフェンス」の制圧にフォーカス。パートナーシップ企業との連携などを通し、復権のための環境を整えていた。
 長野・菅平での合宿中だった8月21日、帝京大と練習試合をした際は22−47と敗戦も、主力が出揃った前半は10−12と互角だった。
 帝京大は10月23日には秩父宮で対抗戦・前年度5位の慶大に42−31とやや苦戦も、以後、かえって原点回帰。早大との練習試合と慶大戦で苦しんだスクラムも、以前より多めに組み込んだ。
 結局、当日は75−3で王者が笑った。
「早大さんは、ちゃんとしたラグビーを作って来られると思っていた。2週間、気合いを入れて準備しました。こちらはもっと厳しいタックルがあってもいいかと思いましたけど、今日の段階ではよかったと学生を褒めたいです。これからどれだけいいイメージをもって頑張ってくれるかを期待したい」
 例の会見で岩出監督がこう続けるかたわら、山下監督は潔く言った。
「こちらの認識、相手選手への想定が甘かった。反省です。ルーズボールへの反応も含め、接点のところで…まぁ、もう少しできるだろう、というところがありまして…。本気の帝京大さんはより鋭いんだな、と思いましたし、それを経験できたのはプラスに変えたい」
 帝京大にとっては、当たり前のことを再徹底しての勝利だった。
 早大の「チームディフェンス」を支えるのは、2人がかりでランナーを抑え込む「ダブルタックル」だが、3分、帝京大がその「ダブルタックル」を引きはがして先制する。
 敵陣でこぼれ球を拾うと、首尾よく攻撃陣形を整えつつ攻撃を継続。22メートル線付近右中間まで進む。
 ここでランナーが早大の「ダブルタックル」に囲まれたところを、近くにいた帝京大の援護役が対抗する。タックラー1人ひとりをつかみ上げ、前方へ押し込む。
 ラグビーではボールより前でプレーできないため、帝京大の「ダブルタックル」への押し込みで早大の防御網は後退する。
 かたや帝京大は、テンポよく左へ球を振る。SOの松田力也、LOの飯野晃司と両副将がパスをつないだ先へ、FBの尾崎晟也が駆け込む。左大外へ弧を描くようなランコースを取り、ボールを受け取るや凸凹に並んだ防御をひらひらとかわす。トライ。松田副将のコンバージョン成功もあり、7−3と勝ち越しに成功した。
「1人目も力強く、2人目も力強く」
 以後も続いた帝京大の「ダブルタックル」対策について、元気印の飯野副将はこう解説する。かたや怪我から復帰で計2トライの尾崎も、淡々と述懐する。
 
「チーム全員としてこだわってきたスクラム、ブレイクダウンで激しくできた」
 
 7分にはグラウンド中盤でのキックを織り交ぜた攻防を制し、WTBの竹山晃暉がトライラインを割る(14−3)。さらに17分には、その竹山へラストパスを通したNO8のブロディ・マクカランがインゴールへ躍り出る。敵陣ゴール前左でのスクラムが起点だった(21−3)。
 帝京大は守備でも魅せた。接点で球出しを遅らせた。かたや早大は、攻撃網の先頭付近でしばしパスを乱した。
 早大の1年生SHの齋藤直人は、攻撃のテンポを出せない理由をこう振り返った。
「シンプルに強い。タックラーは(帝京大側にとって)有利な立場になるようこちらを倒してくるし、その後の動き(次の仕事に映るまでのリアクション)が速い。こう話すと言い訳になってしまいますけど、(接点からボールを)出しやすくは、なかったです」
 
 49−3とリードして迎えた後半14分頃、早大のラインアウトからの攻撃に対してLOの姫野和樹がタックル。早大の倒れたランナーとサポートの間にできたわずかな隙間へ、マクカランが手を伸ばした。球にしがみつき、早大は寝たまま球を手離せないノット・リリース・ザ・ボールの反則を取られた。
 2年生のマクカランは、流ちょうな日本語で言う。
「早大はいつも、帝京大の試合ではいいファティングスピリット(を発揮する)。試合前の練習から、ずっとそう考えていました。スクラムではフロントローも頑張った。ブレイクダウンは、最近のフォーカスポイント。もっともっと、レベルアップしたい」
 続く29分頃には、自陣深い位置で飯野副将が魅せた。
 早大の反撃にやや押し込まれながら、鋭い飛び出しでビッグタックルを放つ。その周りで早大のペナルティーが判定されるや、帝京大は速攻を仕掛ける。
 強烈なタックルをしたばかりの飯野副将は、息つく間もなく帝京大の攻撃へ参加。ボールをつなぎ、敵陣深い位置へ攻め入る。
 竹山の4トライ目が生まれる直前、接点から球をさばいたのは、ハードワーカーの飯野副将だった。
「そこは僕がやらなければ。使命、ではないですが…。PRはスクラムで頑張ってくれていたので、僕はフィールドで皆をカバーしようと思っていました。まだまだ食い込まれる部分はあったので、まだまだ、ここからもっと成長したいと思います」
 夏のゲームも思い返してか、勝ったFLの亀井亮依主将は「苦い経験をした。その経験が自分たちを燃やしています。全員が意思統一していました」。8月には、前年度の対戦では92−15と大勝していた早大に苦しめられていた。辛苦を乗り越えた先に、この午後の快勝劇があったと言いたげだ。
 もっとも岩出監督は、かねて「(結果や内容を問うのは)秋でいい」と話していた。山下監督率いる早大のぶれない強化方針に感嘆しながらも、ここ数年の積み重ねにおいては明らかに分があると見ていただろう。
 だからこそこの日の結果にも、喜ぶことはあっても驚くことはなかった。想定内だった。
「僕にとっては、スコアうんぬんじゃなく、最後まで引き締まったゲームをやり切るのが大事」
 普段は伝統校である早大へのライバル心を口にする指揮官は、他校を100点差で下した際と似たような談話を残していた。早大は「局面、局面での帝京大さんの執念を感じた。今年の強みであるスクラム、チームディフェンス、ブレイクダウンをもう一回磨きをかける」と山下監督。もし12月以降の大学選手権で再戦したら、王者にとって想定外な状況を作り出したい。
(文:向 風見也)

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