コラム 2016.10.24

兵庫・甲南高校の勝利の女神 英語科 寺田由香先生

兵庫・甲南高校の勝利の女神 英語科 寺田由香先生
中央が寺田由香先生、後ろの赤いジャージーが松岡大和主将
 試合会場が色めき立ちました。
「あのべっぴんさんはだれ?」
 今年6月、兵庫・甲南高校のベンチに、すらっとしたモデル系の女性が入ります。場所は神戸市須磨区にあるユニバ補助競技場。県民大会(春季大会)3位の座をかけた科学技術高校との対戦前のことでした。
 ラグビー部監督で体育教員の南屋大(みなみや・だい)先生は声をかけます。
「先生、申し訳ありませんが、ここは関係者の席なので、ほかの場所で観戦していただけませんか?」
 噂の美人は英語科の非常勤講師、寺田由香先生でした。
 教え子の応援に訪れた当時を思い出し、華やかな笑顔を浮かべます。
「私、間違えてチームのベンチに座ってしまいました。それで、南屋先生に注意されて…」
 軽いおっちょこちょいも親近感を抱かせ、美を引き立てる小物になります。
 わずかなタレ目は周囲に柔らかさを抱かすチャームポイント。女優の石野真子さんの黒目を少なく、モダンにした感じです。
 おしゃれのセンスもGOOD。白いブラウスに水色のロングスカートとヒールだけですが、下はまったくの同色で合わせ、統一感や気品を醸(かも)し出しています。立ち姿もすっとしてあでやか。形容するなら「beautiful」の上をいく「gorgeous」です。
 寺田先生は10年前から私立男子校の甲南で英語を教えています。以前はキャビン・アテンダント(CA)として世界中を飛び回った経験もあります。南屋先生は言います。
「校内放送なんてほんとうに美しいです」
 機内アナウンスで経験を積んだ声まで人々をうっとりさせます。肝心の英語力も折り紙つき。990点が最高のTOEICでは930点を獲得。ネイティブ以上です。
 まさに「才色兼備」ですね。
 ラグビー部には顧問ではなく応援者として接しています。交流開始は7年前。当時の教え子から頼まれ、試合を見に行きました。
「行ってみてびっくり。全力で体当たりして、体、大丈夫かな、と思いました。それに生徒たちの顔が教室で見せるのと全然違った。元気いいおちゃらけた子たちが、野生というか、猟犬のようになる。声の大きさや目つきまで違いました。そのギャップに驚きました」
 それまでライブでのラグビー観戦はなかったのですが、はまってしまいます。
「私、何度ラグビーのルールの説明をされても未だによく分かりません。だから試合よりも、生徒を見に行っているんです」
 ラグビー部の部員たちに寺田先生の母性はおおいにくすぐられます。
「体当たりに行く勇気とボールを追いかける集中力があれば、社会に出ても十分通用するはずです。ラグビー部は目上の人にきちんとあいさつもできますし。彼らを見ていると、『英語なんてできなくてもいいよ』と思ってしまいます。まあ、でもちょっとだけ点数は取ってもらいたいのですけどね」
 本職は決して忘れません。
 寺田先生は実社会で必要な教育も施します。年を聞かれると「25歳」と答えます。
「そうすると教室が嫌な空気になります。『気まずいことを聞いた』という雰囲気にさせてしまいます。そして授業が始まります」
 しかし、悪いのは生徒ですね。
 男子高校生ラグビーマンのみんな、女子に年齢を聞くのは失礼です。知りたいなら「高校時代のアイドルとかアニメ」なんかを尋ねて、あとでスマホでググりましょう。そうするとおおまかな年がわかります。
 これからの人生、男の子として、女の子に接する知恵です。ラインアウトでのリフターサックを覚えるよりも大切なことです。
 ラグビー部を率いる南屋先生には寺田先生への感謝があります。
「先生には以前から試合によく来てもらっています。部員たちにいい印象を持ってくれて、可愛がってくださる。自分が教えている子だけじゃなく、ラグビー部全体を応援してくれます。とてもありがたいことです」
 今年のチームは、現在開催中の第96回全国大会の県予選でシード校になりました。順当に行けば、ベスト4(11月13日)で優勝候補筆頭の報徳学園と対戦します。
「ウチにはスポーツ推薦がありません。だから、毎年メンバーに恵まれ、チャンスが続くわけでもない。シード校になった今年はいろいろなことをやって、なんとかしたいですね」
 主将のNO8松岡大和君は最終学年の今年、自主的なウエイトトレの日数を週2から4に倍増させました。MAXは、ベンチプレスは20キロアップの110キロ、スクワットは60キロアップの210キロになりました。
「去年よりも部員一人一人の意識は高く、体作りもしてきました。報徳になんとか勝って、決勝戦に行きたいです」
 甲南の創部は1948年(昭和23)。旧制中学の流れをくむ、ほぼ中高一貫の名門ですが、全国大会出場はありません。県予選決勝進出は4回。今年は28人の部員たちが力を合わせて、悲願の全国舞台を目指します。
 寺田先生は話します。
「すべての試合がすごく苦しいと思うけど、頑張ってほしいです。できることなら勝たせてあげたい」
 甲南の「勝利の女神」は祈りを捧げます。
(文:鎮 勝也)

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最前列右が甲南高校・南屋大監督、その左が寺田由香先生

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