国内
2016.10.01
「入る前に決まっている」。パナソニックFL布巻峻介、タックルを語る。
ビッグプレーを連発したわけでもない。いぶし銀の輝きだった。
9月30日のパナソニック×NTTコミュニケーションズで、布巻峻介がマン・オブ・ザ・マッチ(以下、MOM)に選ばれた。42-14のスコアで勝ったパナソニックの7番を背負い、特にブレイクダウン周辺でよく働いた。
早大から加入して2年目。「トップリーグのレベルをからだに染みつかせる」(本人談)ルーキーイヤーは8試合の出場にとどまったけれど(すべて途中出場)、今季は開幕からの5試合のうち近鉄戦を除いた4試合に出場している(すべて先発)。チームは開幕戦でヤマハ発動機に敗れ、サントリーにも屈した。2勝2敗と予想外の滑り出しだったものの、NTTコミュニケーションズを破った試合内容からは復調の兆しが感じられた。
「きょうはみんなよかった」と振り返った布巻は、自身のMOMを「その中で、ちょっとだけ自分が評価されたのでしょう」と話した。
「ディフェンスでは引っ張っていけたかな、とは思います。いちばん前に立つことを意識し、声を出し、プレーしました。ただ、それも周囲がいてこそ。ディフェンスはひとりではできません。誰かが内に立っていてくれるから、自分が前に出られる」
2年目の今季は、各試合ごとに自分なりの目標を設定して戦いに臨めている。チームのストラクチャーや規律を理解、実行した上で、自身の武器を出せていると自己分析する。
東福岡時代から屈強なCTBとして名を馳せ、留学したNZ・カンタベリーでも高く評価された。重心の低いプレーで倒れず、ハードタックルで相手を倒す。将来を嘱望されていた。
大学3年時にCTBからFLに転向。ポジションが変わっても、一撃の威力と精度を高められたのは確かな理論を持っているからだ。
「タックルがうまくいく、ミスする。それは実際に入る前(コンタクトする前)に決まっているんです」
練習時から意識している。例えばホールド(タックルの代わりに相手を抱え込む)形式でのアタック&ディフェンス時にも基本を追う。
「そういうときでも手で捕まえにいかず、必ず相手の正面に入る。そういうことには昔からこだわっています。タックルの際は絶対に相手から目を離さない。最後の最後まで。そうすることで低い姿勢になっても頭は下がりません。そして(相手との)スペースを詰めること、先に動く。バックスからフォワードになって、相手の方が大きく、パワーがあることが多いので、特にそこが重要」
瞬時にいくつもの要点を完了すれば、あとはスマッシュするだけだ。
コミュニケーション能力の高い仲間に囲まれて、よりターゲットを絞りやすくなっているから迷いなく動けている。
際立つ存在だったユース時代を経て、プレーヤーズ・プレーヤーになった。ともにピッチに立つチームメートこそ、その価値が分かる。
NTTコム戦後にサインを求めたファンのひとりが、本人に「ジャパンになってくださいね。金正奎(NTTコム/FL)と小さなふたりが両FLを組むのを見てみたいです」と声をかけると、「ありがとうございます」と頬が緩んだ。
「ジャパン(になりたいという思い)はいつも頭にあります。ただ、高校、大学時代と、そこばかり見て失敗したことがあるので、いまは目の前のことを一つひとつやっていきたい。(当時はこのままやっていれば)なんとかなるだろう、という感じだったと思う。そうじゃなくて、目の前の相手を絶対に逃さないとか、そういった結果を積み重ねていきたい」
それ以外に道はないとも思っている。ワイルドナイツでレギュラーの座を確保した先にしか、手にしたいものはない。