コラム
2016.09.19
高校ラグビーが高校ラグビーであるために 兵庫県立芦屋高校教員 高木應光さん
『知って驚く?ラグビークイズ』を書いた兵庫県立芦屋高校教員の高木應光さん
今年2016年の『第96回全国高等学校ラグビーフットボール大会 兵庫県予選パンフレット』には、昨年同様、『知って驚く?ラグビークイズ』が3ページ掲載されています。
8章仕立ての内容は、高校生や保護者、観戦者に知っておいてほしいラグビーの歴史やマナーです。
4項目からなる第7章は「高校ラガーマンへ:ラグビーで学んだことを日常でも生かして下さい」と必要な資質を述べています。
(1)「フェア=Fair」
卑怯なことやセコイことをしない。日常生活は堂々と。イジメをしない。
(2)「誠実=Sincerity」
一生懸命練習しないと相手に失礼。正装して相手に向かうのも真心。
(3)「勇気=Courage」
タックルは怖い。それを克服するのが勇気。人間性、責任感が現れる。
(4)「協力=One for all, All for one」
一人はチームのために、皆は勝利のために行動するのがラグビーの協力。
3項目の第8章は「保護者、観客のみなさんへ:ラグビー場ではラグビーらしい観客がリスペクトされます」と気をつけるべき事項が書かれています。
(1)「レフェリーは指揮者」
レフェリーは昔、見識のあるOBにお願いして、任せたのが始まり。お願いした人物への文句は人間らしくない。
(2)「ミスを喜ぶなんて!」
ノックオン、ゴール失敗などで拍手する観客がいる。本当に失礼なこと。敵、味方に関係なく素晴らしいプレーには拍手を。
(3)「応援は声だけ」
ラグビーではラッパ、笛など鳴り物は使わない。英国をモデルにした第1回早慶戦(1922年)以来の伝統。
筆者は県立芦屋高校社会科教員の高木應光(まさみつ)さん。執筆理由を話します。
「大きく2つあります。1つは最近の高校ラグビーにおける観客のマナーがよくない。ラグビーは本来、静かに見るものであって、野球やサッカーとは違います。相手のミスを喜ぶなんてもってのほか。2つめは、レフェリーや対戦相手への尊敬、試合後に敵味方がなくなるノーサイドの精神、それに続くアフターマッチファンクションなどラグビー独自の文化を知ってもらいたかったのです」
高木さんはラグビーが、品格と礼儀正しさを併せ持つ英国紳士を育成するパブリックスクール「ラグビー校」で始まったことを重く考え、第7章を書きました。
高木さんは1945年(昭和20)11月28日生まれの70歳。今でも現役教員として阪神間の近現代史、倫理などを教えています。
ラグビーとの出会いは兵庫県の私立甲南高校の体育の授業で。甲南大学を卒業後、早稲田大学に学士入学。教育学部で社会科の教員免許を取得しました。高校、大学ではスキー部でしたが、早大では教職員チームでWTBとしてラグビーにのめり込みます。
1976年、兵庫県の教員採用試験に合格。これまで鳴尾、芦屋南、伊丹北、県芦屋と4校でラグビー部顧問をつとめました。県高体連ラグビー専門部副委員長の経験もあります。
元々この『クイズ』は、昨年2105年3月、大阪であった「日本ラグビー学会」で高木さんと元龍谷大学監督の星野繁一さんが共同発表した『コーチング再考 忘れられたラグビーの原点〜ラグビー文化の再興を目指して〜』を、高校生用に短くまとめ直したものです。
掲載の交渉には県高体連ラグビー専門部委員長であり、県立御影(みかげ)高校監督の榎本誉展(やすのぶ)さんが当たりました。
「高校生のプレーヤーたちにプレーだけではなくて、ラグビーの文化についても知ってもらいたくてお願いしました。高木先生ならではの視点で、もっと詳しくてもよかったのではないかな、と思っています」
榎本さんは、高木さんが1969年の設立に参加した全国屈指の強豪クラブチーム「六甲クラブ」のOBでもあります。
現在、多くの大学が実施しているラグビー推薦入試では、全国大会出場などの競技実績が合格を左右します。優秀な高校生には授業料免除に加え、奨学金を出すところもある。高校ラグビーでの勝敗は生活、そして人生に直結するようになってきました。日本代表にはプロ選手も多く存在します。
「レフェリー批判や身びいきな応援は、プレーのみでお金を稼げるようになった現在では、仕方がないことではありませんか?」
高木さんは視線をまっすぐに向けます。
「その風潮が進むなら、ラグビーはラグビーでなくなってしまいます。少なくとも高校ラグビーは毅然たるありようであるべきです」
「ラグビーは紳士のスポーツ」に代表される基本的精神は、時代の流れに左右されず、守られなければならない。高木さんはそう訴えています。その上で、ラグビー精神がこれからの日本を支える高校生、周囲の人々に根付くことを強く望んでいます。
第96回全国大会兵庫県予選は10月9日に開幕します。高木さんの『クイズ』が載っているパンフレットは会場校や競技場で1部500円で手に入ります。
(文:鎮 勝也)