コラム 2016.09.04

神戸製鋼、素材、組織ともにパナソニックを上回れず

神戸製鋼、素材、組織ともにパナソニックを上回れず
パナソニックの選手にタックルされる神戸製鋼のLO張碩煥(撮影:BBM)
 一言で表せば「素材」の差である。
 9月2日夜、神戸製鋼コベルコスティーラーズはパナソニックワイルドナイツに6−30とノートライに抑えられ完敗した。
 2戦1勝1敗。トップリーグの首位に立つ野望は砕け散る。
 試合後の記者会見、神鋼主将であるFL橋本大輝は敗戦を総括する。
「最初の20分は戦えた、と思いました。でも、終わってみれば相手の土俵で相撲を取っていました」
 6−13の後半18分、自陣ゴール前右のスクラムを右に回された瞬間、SH田中史朗にサイドを突き抜けられる。スーパーラグビー、ハイランダーズで4シーズン目を終えた31歳に引き離しのトライを奪われる。
 同34分には同じスクラムを起点に、オーストラリア代表キャップ51を持つSOベリック・バーズンにカットイン、アウト、インを使われダメ押しの5点を決められた。
 前半8分、バーンズのゴロパントに呼応してWTB藤田慶和が裏を取る。TMO(テレビマッチオフィシャル)でオフサイドに判定が覆ったが、一時はトライと認定された。後半27分、一発で約60メートルをゲインしたWTB山田章仁。ラックサイドを俊足で突破したSH内田啓介らブルーにレッドのジャージーは蹂躙(じゅうりん)された。バーンズを除いた4人は日本代表でもある。
 神戸製鋼のCTB山中亮平は2チームの違いを聞かれる。
「判断力じゃないですか。ここで何をするか、ということがパナソニックの選手は染みついている感じがします」
 同じ質問にスーパーラグビー、フォース、サンウルブズでプレーした山田は答える。
「ウチは経験を積んでいる選手が多い。それが強みなんじゃないですか」
 経験が判断の確かさを生む。しかし、その根底にあるものは能力の高さだ。主にNO8として日本代表キャップ10を持ち、摂南大総監督をつとめる河瀬泰治は言う。
「経験だけ積んでも一流選手にはなれない。ベースに素材の良さがないと。それがあれば、余計にすごくなる」
 プロ野球・楽天など4球団の監督をつとめた野村克也には名言がある。
「エースと四番打者は作ることができない」
 チームの軸に据える者は「天稟(てんぴん)の才」が必要だ、という意味である。
 そして、西武やダイエー(現ソフトバンク)をチーム編成担当として強豪に仕立て上げた根本陸夫(故人)は言っている。
「よい出物があれば獲りに行け」
 1996年ドラフトでは1位に青山学院大の井口資仁、2位に新日鉄君津の松中信彦を指名する。ともに内野手。上位2枠の同守備位置は異例だった。「投手獲得」を訴える当時の監督・王貞治を説き伏せる。
 井口は今年プロ20年目に入った。2000本安打を放ち名球会に入る。松中は2004年、平成唯一かつ最後の3冠王になった。
 パナソニックのバックスリーは山田、北川智規、笹倉康誉、児玉健太郎らがいるにも関わらず、今年、藤田、そして日本代表WTBの福岡堅樹の2人を新人としてチームに迎えた。さらに筑波大SOの山沢拓也も加える。
 チームの現場最高責任者である部長・飯島均は以前語っている。
「よい選手は獲り過ぎるということはない」
 素材がチーム内で競合しても、高いレベルでの磨き合いになり、勝利につながる。また、他チームに人材が流れる抑止にもなる。
 図らずともパナソニックの考え方は根本と一致している。
 その「素材」を超える可能性があるのは「組織力」だ。リザーブを含め23人全員が攻守のイメージを共有し、体が無意識に反応するまでに研ぎ澄ませば、個々の能力を凌ぐ。
 ヤマハ発動機ジュビロはスクラムという組織に特化してパナソニックを24−21で降す。
 ただ、組織力養成は長い時間がかかる。
 この4シーズン、神戸製鋼で監督をつとめたのは4人。苑田右二、ギャリー・ゴールド、アリスター・クッツェー、そして、オーストラリア代表アシスタントコーチの経験がある49歳のジム・マッケイである。
 一方、パナソニック監督、57歳のロビー・ディーンズは指導3年目に入った。
 マッケイが神戸製鋼でコーチングを始めたのは今年5月から。チーム強化のために新指揮官は精力的に動き、OBたちにも面会して社会人大会、日本選手権7連覇時代(1988〜1994年度)のことも聞き取っている。
 それでも不慣れな異国、それも出身のオーストラリアとは文化の違うアジアの日本で、約2か月で結果を出せ、というのは酷である。
 完敗した試合後の記者会見でマッケイは、いら立つこともなく、穏やかに答えた。
「言い訳はしません。パナソニックは勝つにふさわしいチームでした」
 日本代表キャップ36を持つ35歳のLO伊藤鐘史は帰りのバスに乗り込む前に言った。
「チームの力とインパクトのある選手、両方をともに求めたいですね」
 トップリーグを制するためには、チームとしての総合力が必要である。
(文:鎮 勝也)

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