王者のパックを粉砕。勝利を呼んだジュビロの「スクラムカルチャー」を探る。
我がスタイルをより濃く出したヤマハが勝った。いつもと違うのに3点差まで詰めたパナソニックの強さも確かだった。8月26日、19時30分キックオフ。秩父宮ラグビー場でおこなわれたトップリーグの開幕戦は濃密な80分だった。
24-21。ともにトライは3つずつ。しかし、ヤマハの奪った一つひとつは相手に大きなダメージを与えた。すべては8対8での圧倒が支配していた。
前半15分の先制トライは、それまでじっくりと押し込んでいたスクラムをさっと切り上げ、NO8堀江恭佑−WTB中園真司で左タッチライン際を攻略した。ゴール前に迫って密集周りをFWで突いた後、SO大田尾竜彦がインゴールにキック。それをCTBマレ・サウが押さえた。
後半8分過ぎの3つめのトライは、17-7から24-7と差を広げる重みのあるものだった。始まりはハーフウェイライン付近での組み合いでパナソニックのコラプシングを誘ったところから。タッチキックで相手ゴールライン前に迫ると、ラインアウトからモールを組む。アクシデンタルオフサイドでタッチに逃げられ、再度のラインアウト→モールもインゴールに押さえられなかったが、直後のスクラムで青いジャージーを粉砕した。
押し切り、ペナルティートライを得た右PRの伊藤平一郎は言った。
「相手が目の前から消えていなくなった感じでした」
17点に広げたリードを最後まで守り切った。
勝負の天秤を大きく傾けたスクラムについて、ジュビロのFL三村勇飛丸主将は「スクラムにかけている時間が違います」とキッパリ言った。練習時間の長さや、組んだ本数ではない。そこに懸ける熱量の多さを指している。
HOから転向して2年。入団4年目の3番、伊藤は言った。
「スクラムを組みにフランスまで行くチームです。フロントローだけでなく、FW全員がスクラムについて、ああだ、こうだとそれぞれの考えを持ち、言い合う。そんな時間を繰り返して作り上げた。相手の組み方はあまり関係ない。自分たちが8人で固まる。そして真っ直ぐ。そこにこだわり続けた結果です」
転機となった2年目の10月、「HOの中でいちばん下にいました。3番に怪我人が出たから、そこに行け、と言われました」。その日からすべてのトレーニングを自身の成長に結びつけ、つかんだ開幕戦のスタメンだった。
後半33分からピッチに入ったHO名嘉翔伍は、チームのスクラム文化をこう話した。
「ゲームに入るまでは少し不安もあったんです。練習でAチームとスクラムを組んでいて負けていましたから。どうかな、と。でも実際に(この日の試合で)組んでみるといけた」
スクラムNo.1はヤマハAでその次に強いのは自分たちと、そのとき気づいた。
日常を話す。
「いつもの練習、一本目のスクラムから、AチームもBチームも真剣勝負です。そして一本一本、勝った負けたで互いが喜び、悔しがる。それが毎回の練習です。そのやり合いが最後まで続く」
この開幕戦、ジュビロは最初から最後までスクラムを全力で押し続けた。その数18回。
シーズンを通してその局地戦に全力を注ぎ込む準備はできている。