海外 2016.05.19

サンウルブズ稲垣啓太、「無茶」します! スクラム強いレッズ戦で実戦復帰へ

サンウルブズ稲垣啓太、「無茶」します! スクラム強いレッズ戦で実戦復帰へ
3月のチーターズ戦で相手選手にぶつかっていく稲垣啓太(Photo: Getty Images)
 稲垣啓太が、ついに復帰する。「ベストじゃないですよ、そりゃあ」。万全ではなくとも、復帰する。故障離脱中に抱いたある思いを、貫きたいのだ。
 5月21日、オーストラリアはブリスベンのサンコープスタジアム。スーパーラグビーに日本から初参戦するサンウルブズは、レッズと第13節をおこなう。ワールドカップイングランド大会日本代表の五郎丸歩、ツイ ヘンドリックを擁する相手と激突する。
 もっとも立川理道ゲーム主将は、「久しぶりに会うので楽しみですし、負けたくない」としながら、「あまりそこ(個人との対戦)だけにこだわらず、チームとして、戦いたいと思います」。ここまで1勝8敗1分のサンウルブズ陣営は、当然ながら組織対組織のつば競り合いを見据える。
 左PRの控えに入った稲垣もこうだ。
「オーストラリアのラグビーに対処できていないという感は、ぬぐえないです。だから、このツアーは非常に大事な意味を持つと思います」
 チームは本拠地の東京・秩父宮ラグビー場にオーストラリアのチームを迎え、いずれも惜敗。3月19日の第4節でレベルズに9−35、5月7日の第11節ではフォースに22−40とそれぞれ屈した。
 複層的陣形による攻撃や我慢強い防御など、力任せではない組織的な戦い方に手を焼いているだろうか。今度HOとして先発する木津武士も「(万事に真っ直ぐぶつかって来る南アフリカのチームと違って)オーストラリアはラグビーをしてくる」と語ったことがある。
 それだけに稲垣は、28日には同国キャンベラでブランビーズと第14節をおこなう今回の遠征を、脱皮の時としたいのだ。
 ちなみに今シーズンわずか2勝と苦戦しているレッズは、スクラム成功率は18チーム中4位の94.0パーセントとしている。同じ数字を全体で13位の88.0パーセントとするサンウルブズにあって、最前列で組み合う稲垣はこう発した。
「セットプレーが大切と、誰もが理解している。重要なのは、(相手のしたことに)対応することじゃないですか。スクラムでも、他のプレーでも」
 身長186センチ、体重116キロの25歳。ワールドカップの日本代表としても持ち味のタックルで魅せ、サンウルブズでは守備リーダーを任される。しかし、現地時間4月2日、南ア・ポートエリザベスのネルソン・マンデラ・ベイ・スタジアムでのキングズ戦(第6節:●28−33)で右足を故障。長期の戦線離脱を余儀なくされた。
 5月上旬、チームへ合流。現在の状態を聞かれれば「まだ変な感じもします」という。それでも、試合には差し支えがないと思っている。あるいは、そう思いたい。「『ここ』の辺のレベルに行けば、徐々に(試合をしながら状態を)戻していける…」。身体接触が多いラグビーの職業選手として、腹を決めた。
 万全ではなくとも、復帰する。その心境を、淡々と明かした。
「確実に治してから…というのは難しい話です。やりながら(故障と)上手く付き合っていくのが一番いい方法、という感じですかね。トレーナーさんともお互いに理解をしながら動いていました。そこについては、問題ないんじゃないでしょうか。まぁ…試合をしないと意味がない。結局、ある程度のリスクも承知でやる、ということが、(復帰した)理由なんでしょうね」
 離脱中、自分のプレーを改めて見直した。そこで気付いたのは、体調面以外における「リスクを承知」の重要性だった。本人は続ける。
「冷静沈着にやっていて、言われたことをしっかりこなしていた。ただ、自分から…無茶をする時も必要…と思いましたね」
 稲垣が慕う堀江翔太主将によれば、サンウルブズは「皆が戦術を理解しているところ」を強みとしている。その向きを十分に理解している稲垣だが、タフなゲームを強いられるチームにおける自分の立ち位置を鑑みると、「皆が疲れているシーンでいままで通り冷静にプレーしていても…」と感じた。
 日本代表のキャップ数(国際間の真剣勝負への出場数)はわずか10だが、昨季はレベルズに在籍するなど、その能力は国際的にも評価されている。中核を担う自覚が強いだけに、こう、言うのである。
「疲れて皆が走れない時に、組織を…と言われても、(選手によっては)無理じゃないですか。そんなとき、(極端な飛び出しでタックルを仕掛けるなど)1人で判断して、それが結果として成功したら『ようやった』。失敗したら、その責任をかぶる。そういうことを、避けていましたね、自分は。こういういざというときの判断は、これから必要かと思いました」
 チームの構造を踏まえた動きを重ね、一進一退の攻防を繰り広げる試合終盤、その構造を逸脱した動きでチームを救う…。そんなターニングポイントに関わるプレーを、虎視眈々と狙っている。
 万全ではなくとも、復帰する。その裏には、ふたつの「リスク」を背負う覚悟がある。
(文:向 風見也)

PICK UP