各国代表 2016.04.29

誇りと感激。日本育ちのふたりが韓国代表でジャパンと対戦へ。

誇りと感激。日本育ちのふたりが韓国代表でジャパンと対戦へ。
左がPR鄭貴弘。右がLO南成宗。感激のキックオフへ。

 日本で育ったけれど、いつも韓国を思っていた。国を背負って戦う。その夢が叶う。
 4月30日におこなわれるアジアラグビーチャンピオンシップの日本代表×韓国代表。韓国代表のメンバーに大阪朝鮮高校OBのPR鄭貴弘(チョン・キホン/29歳/京産大→近鉄。昨季まで釜石シーウェイブス所属)とLO南宗成(ナム・ジョンソン/23歳/明大→マツダ)が入った。南は5番で先発し、鄭は背番号17。ともに「夢が叶う」と感激している。

 ジョン・ウォルターズ新監督の就任を機に、3月下旬に選手選考試合を実施した今回の韓国代表。ふたりは高校時代の恩師である呉英吉先生から発信された情報でその試合の存在を知った。「韓国代表が選考試合をやるぞ。在日プレーヤーもOK」の報は、日本のトップリーグチームや各地域リーグの中で資格を持つ選手たちに届けられ、海外留学組や怪我の影響で参加できない選手たちも多数いたが、ふたりとマツダでプレーする李修平(り・すぴょん/26歳、大阪・日新高→大体大)の3人が所属チームの理解も得て試合に出場した。その結果、全員が代表に選出された。

 鄭が笑顔で話す。
「兄(鄭智弘/ちょん・ちほん/現・豊田自動織機シャトルズ)が一度、韓国代表に呼ばれたことがあったのですが、(大韓)ラグビー協会の意向で参加できないことがありました。そういうこともあったので、無理(諸事情により在日プレーヤーは招集しない方針)なのか…と思っていたから本当に嬉しかった」
 そう話す先輩の横で、南がうんうんと頷いていた。
「自分は日本で生まれ、育ちましたが、いつも韓国を母国と思っていました。日韓戦でもいつも韓国を応援していた。今回の自分たちのことで、(全国の)朝高の子たちがここを目指す前例になればいいですね」
 先輩の熱い胸の内を聞いて、またまた南が大きく頷いた。そして言葉を継いだ。
「僕も同じ気持ちです。数少ないチャンスを活かしてほしいですね」

 キックオフ前日の気持ちを鄭は「いつもと同じ」と言った。
「嬉しいのですが、いろいろと考えたら普段のプレーができなくなりますから。国を背負うことの名誉は感じていますが、いつも通りにやりたい。それで出た結果はいまの実力ですから、受け入れ、またやっていくだけ」
 そう話すと、「こいつは4日前から緊張しているんですよ」と南の方を向いて笑った。
「はい、凄く緊張しています。国を背負うんですから。そのことに恥じないプレーをしたいと思います」
 ふたりの韓国語での会話力は、(周囲の韓国代表選手と比較して)鄭が60%、南が20%と苦笑する。会話の内容が理解できないこともある。特に方言の聞き取りに苦しんでいるけれど、同胞とともに戦えることが何より嬉しい。

 鄭は釜石シーウェイブスでのプレーを昨季で終え、現在は所属チームがない。この試合を「チャンス」に、自身の存在もアピールしたいと考えている。
「どこかにプレーする場がないと、代表でのプレーも続けていけません。韓国でも日本でも、どこかのチームでプレーができるようになるためにもいいプレーをしたいですね」
 呉監督も、「今回のことで、後輩たちに新しい道、可能性を示してくれたと思います。試合でも頑張ってほしいですね」とエールをおくった。試合前の国歌を聞くときのふたりの表情を見つめたい。

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