各国代表 2016.04.28

ハンマー投げから転向2年で…。日本代表デビュー狙う知念雄の焦燥感とは。

ハンマー投げから転向2年で…。日本代表デビュー狙う知念雄の焦燥感とは。
2019年ワールドカップを目標とする知念雄(撮影:松本かおり)
 4月24日、昨秋のワールドカップイングランド大会後初の日本代表が始動。20歳以下日本代表も率いる中竹竜二ヘッドコーチ(HC)代行らのもとセレクトされた30名中、故障などで合流していない選手を除く28名が都内で合宿中だ。
 今回のチームは、韓国代表、香港代表と2試合ずつをおこなうアジアラグビーチャンピオンシップに挑む。神奈川・ニッパツ三ッ沢球技場での韓国代表との初戦を、30日に控えている。イングランドで歴史的3勝を挙げたメンバーは国際リーグのスーパーラグビーへの参戦などのため、1人も招集されていない。「もっとも効率的な準備をする」と意気込む中竹HC代行も限られた準備と難航した選手選考などを「来年に向けての課題」だと指摘している。
 逆境を楽しむ有望株揃いのチームにあって、世間で言われるのとは別な種類の焦燥感を抱えるメンバーがいる。
「いまのままで大丈夫かな、もっと上手くなるペースを上げないとな、と」
 PRの知念雄。沖縄県出身、身長184センチ、体重125キロの25歳だ。ハンマー投げで高校、大学と日本一に輝いた実績を誇るものの、本格的にラグビーを始めたのは現所属先の東芝に入ってから。正式に入社した昨季から、日本最高峰のトップリーグでも出番を得た。
 いわばスピード出世での初代表入りだ。目指すは2019年のワールドカップ日本大会への出場だ。野太い声で決意を語る。
「ラグビーを始めた理由が、それなんで。もともとハンマー投げをやっていてオリンピックに出たいと思っていたのが、ワールドカップに変わっただけです。ハンマー投げでは小さな国際大会に出たくらいで、日本代表になったことはなくて…。ワールドカップに出たら、周りが僕より大きくて強いのは当たり前。テクニックもパワーもゲーム理解度も上げないといけない。自分のなかでその緊張の糸を切ったら、ラグビーを始めた意味がなくなっちゃう」
 順天堂大大学院時代、関東リーグ戦4部のラグビー部の試合に助っ人参加していた。陸上部がオフ期間中のトレーニングの一環だったが、対戦相手だった駿河台大監督で元ジャパンの松尾勝博監督に本格的な転向を進められた。間もなく、東芝の薫田真広元監督、採用担当の猪口拓氏と面談。「ワールドカップ、目指しませんか」。いまは男子15人制日本代表のラグビー・オブ・ディレクターを務めている薫田に、知念はこう言われたという。
「いまだに、覚えてます。ワールドカップに出ることが、わざわざ競技転向を勧めてくれた人たちへの恩返し。東芝の会社のなかにも、ハンマー投げの選手を採っていいですかと言われて、いきなりイエスと言った人ばかりではないかもしれないんですよ。実際はどうかわからないですけど、僕はそういう(さまざまな意見を持った)人たちに『知念を採ってよかった』『ラグビーに転向させてよかった』と思ってもらえるようにやらなきゃいけない」
 今度のジャパンの編成事情と日程については、「準備期間が長い方がいいのは確かですけど、そこは僕らがコントロールできる部分じゃない」と前向きに話す。勝負に言い訳は無用。ラグビーをする前からトップアスリートだった知念の、それがプライドであろう。26日にあった練習では力感がものを言う右PRに入り、低い姿勢でのスクラムを組み込んでいた。
「僕らは、いま集まってできること、コントロールできる部分に集中する。それができるメンバーだと、もうわかった。僕は僕がチームで求められることをやる。それしかないです」
 3月にフィジー遠征に出向いた「ジュニア・ジャパン」の仲間である金正奎や中村亮土、国際リーグのスーパーラグビーに参戦するサンウルブズの山中亮平や安藤泰洋と、チームメイトの凄さを次々と語り、「楽しいです」。フィジカル勝負にこだわる東芝で成長しただけに、「痛いラグビーしか知らないので、そのエッセンスを出す。安定したセットプレーと、相手にダメージを与えるプレーを」と決意を語る。世界を食らう一歩を踏み出すか。
(文:向 風見也)

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