コラム 2016.04.05

歓声を上げる小学生たち 奈良・天理でラグビークリニック

歓声を上げる小学生たち 奈良・天理でラグビークリニック
コンタクトバッグへの当りを経験する小学生たち(撮影:鎮 勝也)
 ラグビー人気は小学生にも及んでいる。
 「UNITED SPORTS FOUNDATION」(ユナイテッド・スポーツ・ファウンデーション、USF=一般財団法人)が、奈良県天理市で「Sports Camp in 奈良 Spring 2016」を開催した。春休み中の4月2日から4日、2泊3日の日程である。
 初日と2日目には4種目のスポーツクリニックがあり、ラグビーが、サッカー、テニス、バスケットボールと並び、取り上げられた。
 後援にスポーツ庁や県教育委員会などが名を連ねる催しの主な目的は、「子どもたちにスポーツに触れる機会を積極的に創出する」。県内と北隣の京都府から新4〜6年生までの小学生男女84人が参加した。
 UFS事務局に勤務し、現場責任者である山本英莉は話す。
「五郎丸さんの活躍などで、ここのところラグビーにおける小学生人気がぐっと変わってきました。タグラグビーでなじみはあったと思うけれど、以前なら接触のあるラグビーは女の子にとって、見学するスポーツ。でも今は積極的に前に出てきています」
 昨年のワールドカップイングランド大会で初めて3勝を挙げた日本代表の活躍が、次代を担う小学生にも影響を与えている。
 今回、講師をつとめたのは40歳の向山(むこうやま)昌利だ。CTBとして熊本県立熊本高校から同志社大学に進学。ワールド、NECに在籍して、そのスピードあふれるタテ突進で日本代表キャップ6を手にした。現在は、滋賀県にあるびわこ学院大学でスポーツ教育の講師や同系列の滋賀学園高校ラグビー部のGMをつとめている。
 向山に日本ラグビー協会を通して要請した理由を山本は口にする。
「子どもたちに『本物を見せる』という方針でやっています。なので、基本的には代表クラスの方に来ていただいています」
 さらに、県ラグビー協会の普及育成を担当する新屋(しんや)雅広、森田明成、新宮済(あらみや・わたる)、奈良教育大学ラグビー部、2年生の小池晋一朗の4人がアシスタントとして参加した。
 クリニックは3日午前9時30分、市内の長柄運動公園グラウンドで始まる。曇り空ながら、会場周囲の桜は満開。薄桃色の花が、小学生がつけた黄、緑、青、オレンジの4色のビブスに重なり、華やかさを加える。
 一団は2組に分かれ、片方はバスケットのクリニックを体育館で受けた。1回のクリニックは約80分だ。
「ムコちゃんと呼んでね」と自己紹介した向山は続ける。
「ラグビーはリスペクトをしないといけないスポーツです。相手を尊敬して、敬意を持ってね。パスでも相手を思い遣って下さい。取りやすいパスをしてあげてね。ボールは卵と思って下さい。落とすと割れちゃう。だから落とさないようなパスをしてね」
 約20メートル先までボールを持って走り、往復するリレーや、ドリブル。サークル(円)を作り内向き、外向きに立ってパスするなど、まずは楕円球に慣れさせた。
 10メートル間隔で3人を立たせ、1人でそれをかわす抜き合いをチーム対抗にしたりして、勝敗の感覚も入れた。大きな歓声が子どもたちから上がっていた。
 最後は森田らが用意したコンタクトバッグに当たり、予定を終了した。
 新屋が小学部監督をつとめる「キッズラグビーとりみ」から、6年生女子の藤井茉音(まお)が参加した。とりみでタグラグビーをやっている藤井はニッコリする。
「楽しかったです。タグも普通のラグビーもどっちもいい。今日はコンタクトバッグに当たれてよかったです」
 抜き合いでは、横にしか動けないディフェンスをフェイントでかわすなど、動きの良さは光っていた。
 2回のクリニックを終えた向山は、幼年層に対するコーチングの思いを口にする。
「一番気にするのは楽しいかどうかということ。楽しかったら、どっかでラグビーをやってくれるじゃないですか。それでいいですよね。上手い下手は関係ない。今うまくても、将来うまいとは限りませんから」
 新屋はグラウンドに身を置きながら、向山の指導の巧みさを見て取った。
「最初は2列で並ばせてスタートしても、待ち時間が長いと判断した場合には、4列にするなど、さすがだなと思いました」
 大人にも勉強の1日になった。
 主催者側の山本には、クリニックでラグビーを取り上げ続ける思いはある。
「これからもできるだけ入れていきたいですね。ただ、ラグビー協会がお忙しいようなので、講師派遣をお願いする手前、その兼ね合いになるとは思いますが」
 奈良開催の10日前、3月23日から2泊3日で行われた静岡でのクリニックでもラグビーが選ばれた。向山とNECでのチームメイトだった川合レオ(日本代表キャップ1、CTB)が講師をつとめた。
 この財団法人のクリニックは、小学生の競技人口アップの一助にはなる。将来を担う学童層の取り込みは、そのままラグビーの浮沈につながっている。
(文:鎮 勝也)

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今回のクリニックで講師をつとめた元日本代表の向山昌利さん(撮影:鎮 勝也)

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