大分舞鶴CTB安部武、現役で京大合格。花園出場レギュラーが文武両道を体現。
(撮影/早浪章弘)
「みんなの期待に応えられて本当によかった」
落ち着いた声で喜びを語ったのは、この3月で大分舞鶴高校を卒業した安部武(あべ・たける)。昨年末の第95回全国高校大会(大阪・花園ラグビー場)に主力選手として出場。その敗退後、約2週間でセンター試験を受け、このほど見事に国立難関の京都大学教育学部に現役で合格を果たした。
花園に54度出場の大分舞鶴はラグビーの名門としてだけでなく、県内屈指の公立進学校として知られ、3年生の8割以上が国公立大学に合格。近年、九州でトップクラスの合格率を維持している。同校によると、ラグビー部員を京大に送り出すのは初めて。中川盛夫監督は「何でもやらずにできるという子では決してなかった。グラウンドで安部を特別扱いしたことは一度もない。受験に関係ない授業でも試合以上に戦う目をして聞くなど、何事にも妥協しなかった。彼の努力のたまものとしか言いようがない」と振り返る。
小学生のときにタグラグビーを始めた安部。「全国大会に出たい」と高校の一般入試をトップで合格し、強豪の門を叩いた。けがも多くなかなかレギュラーに定着できなかったが、3年生になると172cm、70kgと決して大きくない体で激しいタックルを続け、欠かせないディフェンスの要に成長。プレーでもチームの信頼を勝ち取った。
同校で最もレベルの高い国立文系進学クラスで、部活動との両立を続けてきた。授業態度や負けず嫌いの性格に注目した担当教員からの勧めもあり、2年生の頃から「やるからには高いところを目指したい」と京大受験を考えるようになった。
予備校などに通ったことはない。8時前から17時前までの通常授業を終え、約3時間の部活動で厳しい練習をこなし、自転車で約30分かけて帰宅。引退するまでは、体力回復のため睡眠時間を確保することも決め、毎日1時間程度しか机に向かえなかった。だが、国公立大を目指す他の生徒と同じように始業前の早朝から通学し、特別講習や職員室での個別指導や添削を熱心に受け続けた。
「模試の結果などを見て焦りや不安もあった」
それでも、仲間からの励ましやチームの理解が何よりの支えになった。同級生を中心に、チームには安部の学習環境を整えようとする姿勢があった。夏合宿の宿舎にも勉強部屋を確保。遠征帰りのフェリーの一室でも問題集を広げた。全国大会の宿舎にも当然のように教材を持ち込み、練習と相手チーム分析の合間に、単語帳とにらみあった。
昨年末の花園には、不動のインサイドCTB、キッカーとして2試合に先発。迎えた2回戦の関商工戦。安部は試合終了間際、同点に追いついた後のコンバージョンを外してしまう。チームは抽選の末、次戦進出を逃した。責任を背負い、「落ち込んで3日間は何もできなかった」。だが、いつも支えてくれた仲間が「受験では外すなよ」と明るく振る舞ってくれた。直後の模試の結果が芳しくなかったことでも闘志にも火がつき、「集中して納得のいくまで一気に追い込むことができた」という。
ラグビーを続けるつもりはなかった。だが、高校生活最後のプレーを糧に「このままで終わりたくない」と関西大学Bリーグの京大でもプレーすることを決めた。
「経験を生かしてAリーグ昇格に貢献したい」
そして「せっかく自分の選んだ道に進めるのだから、自分の知的好奇心に正直に学びを深めたい」とも。大学では幅広く教育の仕組みについて探求するつもりだ。新たなステージでも妥協せず、文武両道を貫く。