【超解説】キッキング研究家・栗原徹の6か国対抗「キッカーナビ」。
イングランドSOオーウェン・ファレル。(写真/Getty Images)
イングランドとフランスが、それぞれスコットランドとイタリアに競り勝った。
アイルランドとウエールズは引き分けた。
2月6日に始まったシックスネーションズは、やはり文句なしにおもしろい。ワールドカップ後に指揮官、陣容に変化があり、各国とも新しいスタートを切った。
相変わらずの存在感を見せるビッグネームたち。ベテランの引退でチャンスを掴む若手もいる。2019年ワールドカップの舞台に立つ選手たちの顔触れをいまから予想するのも楽しい。
そんな戦いが始まったいま、各チームのキッカーたちを専門的な目で見つめている人がいる。NTTコミュニケーションズでスキルコーチを務めている栗原徹氏だ。自身も2003年のワールドカップに出場し、正確なプレースキックでチームを勝利に近づけた。当時からコーチのサポートを受けてトレーニングを重ね、いまはキッカーたちに寄り添って的確なアドバイスを送り、選手たちの成長を後押しする。そして、研鑽を重ねて得た知識と眼力で各キッカーをひと目見れば、その選手の特徴を瞬時にして見抜く。今シックスネーションズの第1節を見た栗原コーチに、各国キッカーについて語ってもらった。
まず、15-9のスコアで新指揮官の船出を勝利で飾ったイングランドから見ていこう。
エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる同代表のキッカーを務めたのは 1C1PGのCTBオーウェン・ファレル。彼は「回転系の代表格」だ。この試合では、コンバージョン(C)、PGとも2本中1本ずつしか決められなかった。
「感覚に頼ることが多くなるので、疲れてきた終盤に精度ダウンする可能性が出てきます」 栗原コーチは、(この試合ではキックの機会がなかったが)むしろSOジョージ・フォードの方を推す。
「教科書です。誰かを真似するなら彼がベストです。頭、左肩、体重移動。理想的なフォームです。彼はインパクト系のキッカー」
ワールドカップでジャパンを苦しめたスコットランドの主将、SHグレイグ・レイドローは、このイングランド戦でも3PG(4本中3本成功)を決めた。
「コンパクトな振りから、押し込むので安定感のあるタイプです。押し込み系のキックです」
フランス×イタリアは25-23と接戦となっただけに、両チームともキッカーの役割は大きかった。
1C2PGのプレースキック機をすべて成功させたSOジュール・プリソンはについては、「フランス人に多いタイプです。フランスは形よりも、よりスムーズに蹴ることを大切にしていると見受けられます。彼も例外なくそのタイプ。インパクト系」が栗原評だ。同代表にはトゥールーズでキッカーを務めるSHセバスチアン・ベジーもいる(インパクト系)。
勝者を最後まで苦しめたイタリアでは、1C1PG(C、PGとも成功率50%)の他DG(1本)も決めたSOカルロ・カンナがゲームをリードした。
「荒削りのキッカー。このレベルでは珍しく確立されたものがありません。蹴り足を大きく振るので、安定性に欠けますが、これからフォームを固めていくのだと思います」
栗原コーチは、途中出場で(一度の機会に確実に)1PGを決めたケリー・ハミモナの方を高く評価する。
「(キッカーとしては、彼の方が)ファーストチョイス。コンパクトな振りでコントロール抜群です。インパクト系」
アイルランド×ウエールズも16-16と白熱した試合になった。
大会3連覇を狙うアイルランドには、世界有数のSOジョナサン・セクストンがいる。この試合でも1C3PGを決め(100%)、相変わらずの存在感を示した。
「インパクト系。世界的なキッカーの1人です。コーチング、経験など考えるとハイライトの時期に入ってきてると思います」
小刻みに体を動かすキック前の動作で一躍世界の人気者になったウエールズのダン・ビガーは、怪我のためこの試合は途中交代となったが、優秀なキッカーであることは間違いない。
「ルーティンでお馴染みの選手となりました。彼は回転系と押し込み系の中間くらいで、勢いもあり、方向性も高く、ストレスの少ないキッカーのひとりでしょう。インパクト系」
ビガー欠場後に出場し、成功率100%のキックを披露したのがSOリース・プリーストランドだった。
「安定のプレースタイル。キックもインパクト系で、安定しています」
今回は試合出場の機会を逃したが、ウエールズにはもう一人、優秀なキッカーがいる(さらに、怪我で長期離脱中のFBリー・ハーフペニーもいる)。FBガレス・アンスコムだ。
「ジョージフォードに似ていますが、頭の上下運動あるために少し精度を欠きます。ただ、しっかりとしたルーティンを持っているため、大崩れはないでしょう。私が好きな選手の一人です」
シックスネーションズの各国キッカーたちのタイプを3つに分類すると、下記のようになる。
■インパクト系(8人)
ジョージ・フォード(ENGLAND)
ジョナサン・セクストン(IRELAND)
ダン・ビガー(WALES)
ガレス・アンスコム(WALES)
リース・プリーストランド(WALES)
ジュール・プリソン(FRANCE)
セバスチアン・ベジー(FRANCE)
ケリー・ハミモナ(ITALY)
■押し込み系(1人)
グレイグ・レイドロー(SCOTLAND)
■回転系(2人)
オーウェン・ファレル(ENGLAND)
カルロ・カンナ(ITALY)
自ら分類したキッカーたちの顔触れを見て栗原コーチは言う。
「分布の割合を見ても、インパクト系が世界の主流になりつつあります。?いかに正確性を担保しながら飛距離を出すか。?プレッシャー下でミスした時にどこへ立ち返るのか。この2点がキックの大きな命題です。(キッカーの傾向は)回転系→押し込み系→インパクト系と推移してきているように感じます。時代と共にトレンドが変わっていくのを観察するのも面白いものですね」
スペシャリストは、キックの4大チェックポイントを、「左肩の角度」(右が蹴り足の場合/体が開かないように)、「ヘッドダウン」(反り返らない)、「エンドポイント」(利き足がどこで止まるか/ターゲットへ真っ直ぐフォロースルーできているか)、「体重移動」(インパクト直後に軸足を抜いて前方へ歩くように進む)と言う。
スタジアムの全視線を集めるキッカーたち。テレビ観戦時にも注目し、チェックポイントを見てみよう。
PROFILE◎くりはら・とおる
NTTコミュニケーションズシャイニングアークス スキルコーチ。1978年8月12日、茨城県生まれ。37歳。現役時代のポジションはFB/WTB。清真学園中→清真学園高→慶大→サントリー→NTTコミュニケーションズ。高校日本代表に選ばれ、慶大では大学日本一も経験。サントリーに入社後、2003年ワールドカップに出場した。2008年度からNTTコムへ。日本代表キャップ27。347得点。