御所実のいま。
1点の重みを激しく感じている。
御所実業高校監督の竹田寛行の胸中には悔しさ、悲しさが渦巻く。
天理に5−6の1点差で敗れた。11月15日、第95回全国大会奈良県決勝。昨年度の全国準Vチームは2年連続10回目の花園出場の夢を断たれた。
「この1点は大きい。30、40点離れている方が楽。小さな積み重ねが足らんかった、ということです。それを生徒たちに持たせてやれんかった」
敗因を技術や戦術ではなく、人間的な部分に見出す。
「苦しい時に気付きができん。ボール、目の前のことしか見えん。広い視野があれば、コミュニケーションも、サポートもできる。そこの差だったと思います」
内面を磨く努力を部員たちはしてきている。主将のFB井上拓は登校すれば、学校周りのゴミを拾って歩いている。
「でもね、僕だけでは指導できん。コーチを含めても限界がある。色々な人にどんどん入ってきてもらって指導してもらう。その方が生徒も響く。変わるためにはそれしかありません」
忘れられない負けをも踏まえて、竹田が考えているのは、高校ラグビー界初となる「地域一体型チーム」である。
学校のある御所市、奈良県、そして教育委員会を巻き込みながら、部員たちを含めた学校のよりよい成長を地域の活性化と比例関係に持っていく。結果的にそれがラグビー部強化につながる。
2年前から、薬品科学など5学科を持つ実業学校の校区を撤廃した。県内はもちろん全国から入学可能になる。一家転住して住所を変える必要はなくなった。
自宅外通学者のための住まいも、市内の工務店の協力を得て、その寮にこの春から間借りする。
竹田は自宅を改造して13人の部員を預かっている。部屋は満室状態。毎日の食事は妻の光代が一人で作る。
本格的な寮完成は、さらなる良質の部員獲得と同時に、妻の激務を軽減させる。
「そうせんとやっていけん。これまでは、『来るな』言うてた子を預かれるようになる」
土のグラウンドも人工芝化される。来年1月に工事は着工。野球部のバックネットを東側に移動させ、4月上旬には縦70メートル、横100メートルのフルサイズのラグビーグラウンドが完成する。施設の良化で「御所道場」と称される場所に、さらに多くのチームが集まるのは間違いない。
地域にとっても御所実が全国有数の強豪であり続けてくれれば、メリットも大きい。
「土、日でウチのグラウンドには多い時で2000以上の人が集まる。ジュースを1本買ってもらっても経済効果はあります。実際、夏は学校の自動販売機が1日で売り切れてしまいます。人が出入りすることは、特別な観光資源をもたんこの街にとっては、いいことやと思います」
近鉄御所駅から新地商店街の間では、今年10月から「ラグビーマルシェ」が始まった。日曜には県内の農産物や加工品が販売される。2月にはラグビー部もストリート・ラグビーやハカで盛り上げに一役買う予定だ。
市は近隣の五條、橿原、葛城の3市とともに2019年ラグビーW杯、2020年の東京五輪のキャンプ地に名乗りを上げた。
今年は竹田が御所工(前校名)に赴任して27年目。強化のために外せない地域の支援が、大きなうねりになろうとしている。
11月15日、天理に敗れた後、3年生を含めて練習は続けた。24日に希望枠での全国大会出場の可能性があったからだ。しかし、朗報は京都成章に飛んだ。
「負けた時点でそんなもんは関係ありません。そんなに甘くない、ということです」
そのまま、期末テストの一週間前に入ったため、新チームの本格的始動はしていない。
今年は主将をしばらく決めないつもりだ。
「キャプテンを決めるとそいつの色に染まってしまい、頼ってしまうんです。そうじゃなくて、一人一人がキャプテンに遠慮することなく、自分自身の判断で行動して、人間の幅を広げて行ってほしい。みんながリーダーのつもりでやってくれれば」
竹田はひげを伸ばしている。負けた11月15日以来、かみそりを当てていない。
「無精ですよ。意味はありません」
いつも清潔にしている竹田の無念さがその顎や口元から伝わってくる。学校や周囲の環境は整ってきてはいる。しかし、全国の舞台に上がれないのは、やはりつらい。
新チームの本格的始動は期末テストの終わる12月8日。ひげを剃る心境になれる日に向け、竹田は地域とともに人間教育を続けて行く。