ワールドカップ 2015.10.21

検証で確認された世紀の“誤審” レフリーに非難、同情、チャレンジ制の提案

検証で確認された世紀の“誤審” レフリーに非難、同情、チャレンジ制の提案
明暗を分けた判定。ジュベール レフリーにアピールするスコットランドのレイドロー主将
(Photo: Getty Images)

 英国で開催されているラグビーワールドカップ2015は熱戦の連続で、史上最高の盛り上がりを見せているが、24年ぶりのベスト4入りを目前で逃したスコットランド代表にとっては、準々決勝の終盤に響いたオフサイドの笛はあまりにも残酷だった。

 18日にトゥイッケナムスタジアムでおこなわれたワールドカップ準々決勝のスコットランド代表×オーストラリア代表戦。34-32とリードしていたスコットランドが、残り時間約2分の場面で、自陣でラインアウトをおこなった。このとき問題のシーンが起こる。スコットランドのジャンパーがはたき落としたボールはバウンドし、これを味方のFLジョン・ハーディーが確保できず、ノックオン。そしてそのボールをオフサイドの位置にいた(と思われた)スコットランド代表のPRジョン・ウェルシュが取ってしまい、クレイグ・ジュベール レフリーは反則の笛を吹いた。直後、オーストラリア代表のSOバーナード・フォーリーが逆転PGを決め、スコットランドは準々決勝で涙をのんだ。

 しかし翌日、ワールドラグビー(国際統括団体)の審判選定委員会はこの問題シーンについて検証をおこない、誤審だったと認める声明を発表。全角度からのビデオで再確認したところ、ノックオン後にオーストラリアのSHニック・フィップスの手がボールに触れていることが明らかになった。つまり、スコットランドのウェルシュはオンサイドとみなすべきで、オーストラリアにスクラムを与えるのが適切な判定だったのだ。

 スコットランド代表のグレイグ・レイドロー主将はその場面でレフリーに対し、なぜペナルティなのか「何度も訊いた。彼自身、自分の判断に自信を持っていなかった」と試合後の会見で語った。テレビマッチオフィシャル(TMO=ビデオ判定)がおこなわれなかったことものちに議論となったが、TMOの施行規則ではトライや危険な行為などに関係するプレーが対象で、今回の件についてはレフリーはビデオ判定に委ねることができず、その場で判断せざるを得なかった。

 英国メディアやファンの間では誤審をおこなったジュベール レフリーに対する非難が続いているが、勝ったオーストラリア代表のマイケル・チェイカ ヘッドコーチは同情している。
「フェアではないと思う。他のレフリーは今回のように首をさらされることがなかった。クレイグ・ジュベールは本当に腕の良いレフリー。今まで見たことのないケースだ。なぜこの判定だけが表で議論され、裁かれるのか。他のレフリーは、ぜひ彼を支えてやってほしい」と20日の会見でコメント。そして、「自分自身、今まで大会関係者と極めて仲が良かったわけじゃない。ただ一つ言えるのは、試合終了のホイッスルが鳴れば何も引きずらないようにしている。残念なことに今回は、フィールド上で起こった出来事をピッチ外に持ち出し、かなり感情的になっている人が大勢いる」と語った。

 37歳の南アフリカ人であるジュベール氏は、国際マッチでは10年の経験があり、2011年ワールドカップの決勝で笛を吹くなど、世界的に認められた優秀なレフリーのひとり。

 同じ南ア出身で、かつてトップレフリーとして活躍したジョナサン・カプラン氏は、ジュベール レフリーがその試合の別の場面でスコットランド代表のWTBショーン・マイトランドにイエローカードを出したことや、試合後に逃げるようにフィールドを離れたことを批判しながらも、自身の経験からレフリングの難しさを知っており、「チャレンジ制度」の導入を提案している。微妙な判定に対しビデオ判定を要求する「チャレンジ」は、テニスやバレーボール、NFL(アメリカンフットボール)、野球のメジャーリーグなどで導入されている。
 カプラン氏は「キャプテンズチャレンジが問題を解決してくれるかもしれない。我々は、選手やコーチにもっとパワーを与えなければならない(チャレンジコールを認める)。ゲーム(現代のラグビー)はあまりに速くなり、複雑になりすぎている」と自身のコラムで見解を述べた。

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