3つの曲線。「歴史を変えた」エディー流チームビルディングとは。
選手をねぎらうエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ。(撮影/早浪章弘)
スポーツの歴史を変えた−−。そんな声まで世界から聞こえる。
ラグビー大国・南アフリカの代表チーム、スプリングボクスをワールドカップの初戦で34-32と破り、世界に衝撃のニュースを発信した日本代表。宣言してきた通り、9月19日に「ジャパン」のピークパフォーマンスを引き出したのがエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)だ。鮮やかな仕事ぶりに、その手腕はあらためて高い評価を得ている。
どういった結果を残したいのか。
ジョーンズHCのチームビルディングの第一歩は、いつもそれを決めることから始まる。例えば今回のワールドカップを見据えた同HCは、「チームのピークを9月19日に持っていく」と、随分前から南アフリカとの決戦の日をターゲットに定めた。
「チーム力を上げる3つの要素を、戦術とフィジカル、メンタルとしましょう。それらに関して、時期を考えながら別々に高めるのです」
長いコーチングキャリアがある。ジョーンズHCはその3要素について、時期ごとにアプローチの仕方、強度を変えてチーム力を高めた。
それぞれの分野に対し、強度、負荷を高める時期を変える。そういった計画の立て方を、ピリオダイゼーションと呼ぶ。期間ごとに新しい刺激を与えたり、負荷の違うトレーニングメニューを立てる。
「ジャパンでは、フィジカル面の強度を高くすることから始めました。そこがもっとも時間がかかるし、とても重要だからです」
だから選手たちは、春、夏とヘトヘトになった。ジョーンズHCは、そんな時期はミーティングの時間を極力少なくした。
「フィジカルに負担を感じているときに、メンタルまでプレッシャーをかけたくないからです」
フィジカル、戦術、メンタルの3要素が、下の表のような上昇曲線を描くようにトレーニング計画を立て、チーム強化を図った。綿密な準備と、妥協なき実行をくり返し、ジャパンはパーフェクトな状態で南アフリカの前に立ったわけだ。
さてチームビルディングの最終章、メンタル面について、ジョーンズHCはどうやって高めたのか。
8月下旬、ジョーンズHCは「ここから大きく伸びるのが、そこ」と言っていた。チームとは生き物だ。いつ覚醒するのかは、長いキャリアを持つ同HCでも分からないし、簡単にコントロールできるものでもない。
「一晩明けて、いきなりチームが変わっているかもしれません。もしくは徐々になるかもしれないのです。2003年にオーストラリア代表を指揮していたときには、こんな日がありました。その日、チームは国の伝統的な踊りを見て、たき火を囲みました。ワールドカップへ出場することの自分にとっての意味を一人ひとりが話しました。そのミーティングが終わってから、チームは変わった。精神力がすごく強化されたのを感じました」
国内キャンプ地の宮崎でチームがおこなった活動について、こう話した。
「日向(ひゅうが/宮崎県)に行って、さざれ石(※長い年月をかけて、小石のかけらの隙間をさまざまな物質が埋め、1つの大きな岩の塊に変化したもの。日向市・大御神社のものは日本最大級とされる)を見ました。日本の力というのを選手たちに感じてほしかった。私たちは、ラグビーワールドカップという大きな舞台に向かっています。あくまでラグビーの試合でしょ、という人もいますが、私たちにとっては生死を懸けるものです。だから、大きな愛国心がないと戦えないのです」
ワールドカップに参加するすべての国が、気持ちを最高に高めて戦いに挑む。そんな舞台でジャパンは、まず情熱の部分で南アフリカを上回ったから勝てた。スタジアムのファンや世界を味方につけられたのは、誰もがそれを感じ取ったからだ。