ワールドカップ 2015.09.16

100倍になった。祭りの中。小野晃征、自身2度目の大舞台へ。

100倍になった。祭りの中。小野晃征、自身2度目の大舞台へ。

三番手のSH役も担うが、「そんな状況はない方がいい(笑)」。

(撮影/松本かおり)

 まだハタチだった。
 2007年。フランスにて本当の世界を知る。小野晃征にとって初めてのワールドカップだった。28歳になって迎える2度目の大舞台では、どんな景色と出会えるだろうか。

「10倍。いや100倍ですかね」
 8年前の自分といまを比べたら、それほど違うと笑う。
 何が?
「すべて、です。その中でも理解力がまったく違うと思う。このチームが何をしたいのか。チームに何が必要で、どうコントロールすればそれが実現するのかが分かっている。4年かけて準備し、エディーのもとで学んだことも多い」
 生まれてからほとんどの時間を過ごしたニュージーランドから『来日』したのが2007年春、ワールドカップ開幕の半年前だった。サニックス入団とジャパン入りがほぼ同時。異例のケースに注目されたが、振り返ってみれば、世界と戦うには明らかに準備期間が足りなかった。
 だから、長い時間をかけて準備してきた今大会は8年前と同じはずがないのだ。
「スタートラインに立てた(ワールドカップメンバーに選ばれた)喜びも違います。作り上げてきたものを見せるのが楽しみだし、やってきたことを信じて戦えることも喜び」
 支えてくれた家族(エルイーズさんと結婚)やチームメートにプレーで恩返ししたい。思いは強い。

 日本を発つ前の合宿中、各ポジションごとに食事会を開くチームビルディングがあった。ワールドカップ経験者が、自身の知識や体感を若い選手たちに伝える機会。小野は、ハタチの自分が感じたことを素直に話した。
「いつものようにラグビーをやるのが大事だけど、祭りの中でプレーするようなもの。それがワールドカップなんです。いろんな公式行事など、ラグビー以外にフォーカスしなければいけないこともあります。でも、そういうことをマイナスに考えず、自分のメモリーに刻むべき大切な時間と思うといい。
 実際にピッチに立ってもお祭りのようなものなんです。グラウンドの一角でバンドが演奏する中でウォーミングアップをする。その時間帯でもスタンドに何万人ものファンがいるときもある。今年の春、チームは試合会場や街を事前視察という形で訪れましたが、同じスタジアムであり、同じ街だけど、ワールドカップのときはまったく違うものになっている。そういう心の準備もすごく大切だと、みんなに話しました」

 今大会のメンバーに選ばれ、ニュージーランドの多くの友人から祝福のメールなども届いた。それも、ワールドカップだからだ。
 小野はハタチの頃言った。
「普段のテストマッチは両国のファンが見るものだけど、ワールドカップは両国の枠を超えて世界中の人が見つめる舞台だと思っています」
 そんな舞台に立つのだ。誇りに感じる。喜びも。だけど大きな責任をともなうことも自覚している。世界の人々が日本ラグビーに目を向ける数少ないチャンス。戦いの時を迎え、慌てるようではダメなのだ。だから、そこに平常心で立てる自信を得る4年を過ごしてきた。100倍違う自分がどれだけやれるか、楽しみでしょうがない。
 鮮明な記憶がある。
「(2007年大会初戦の)オーストラリア戦の試合前でした。ピッチに入る前に並んだとき、ふと横を見るとナイサン・シャープがいて、ジョージ・グレーガン、スティーブン・ラーカムらが隣りに立っていた。あ、自分はこれから世界と戦うんだ、とあらためて思った瞬間だったんです」
 2度目の祭典が開幕するまで、あと数日。すべてのシミュレーションは頭の中にある。
 

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