「チャレンジあるのみ」　大阪朝鮮高級学校新監督・権晶秀

　就任1年目に感じているのは厳しさだ。
　大阪朝鮮高級学校（以下朝高）の新監督・権晶秀（こん・じょんす）である。
　1981年7月8日生まれの34歳。今年4月、コーチから昇格した。予選リーグで敗退した第16回選抜大会の後である。
「そりゃ不安の方が大きいですよ。全国大会出場は6年連続。この記録は今の大阪府では最長ですしね」
　着任して最初の公式戦は5月の府総体だった。予選リーグで大産大高に5-32で完敗。大阪5位になり秋の花園予選はAシード漏れし、Bシードに回る。

　権は初代監督・金鉉翼（きむ・ひょんいく）から数えて6代目。現在は強化コーチに変わった呉英吉（お・よんぎる）から大役を引き継ぎ、その重みを知る。
「何が大変ってコーチの時は練習メニューを考えるだけでよかった。でも今は合宿、遠征、進路などすべてを考えないといけません。しなければならないことがとても多いです」
　グラウンド外での肩書は朝高社会科教諭。ラグビーはこの学校で始め、朝鮮大学校でも続けた。現役時代はFLだった。

　指導は、伝統であるコンタクトの激しさ、ディフェンスの堅さを受け継ぎながら、自分の色を出して行こうとしている。
　練習では3対3を増やす。アタック側に相手の立ち位置や前に出る出ないを素早く判断させる。その上でボールキャリアーに密着するハンマーやショートパスを選択させる。
「FWとBKが一体というか、つないでとるトライを増やしたいんです」

　呉は14歳下の後輩を指導者として評する。
「FL出身なのでブレイクダウンの大切さをよくわかっています。だから痛い練習を生徒にさせることができる。レフェリーがうまいのもいい。審判サイドの解釈を練習に落とし込める。灰色の部分を作らせませんから」
　大阪の高校ラグビー指導者は公式戦でのレフェリー当番がある。いわばマストの能力だが、決め事に真面目に取り組むことが、チームにもプラスになっている。

　権は精神面にも気を配る。チームナンバー1の決定力を持つ金秀隆（きむ・すりゅん）が練習中、腕をすりむき、顔をしかめた。185センチの大型WTBに声をかける。
「エースだったらちょっとくらい痛くても、声を上げるな。辛抱してプレーを続けるのがエースや」
　朝高ラグビーの神髄、体の強度や運動量の積み上げは忍耐の中にある、ということを権は知っている。

　朝高創立は1952年。韓国、北朝鮮の国籍に関わらず、朝鮮の民族教育を施す学校として作られた。校内では朝鮮語を使う。
　創部は1972年。それから約20年の歳月を経た1991年、府総体参加が認められる。当時は文部科学省が定めた一条校ではなく、専門学校扱いだったため、公式戦には出られなかった。
　1994年には全国大会参加も可能になる。2003年に初出場（83回）。2回戦で正智深谷に24-40で敗れた。全国大会には6年連続9回出場。最高位は89回大会（2009年度）、90回大会（2010年度）の4強入りだ。
　日本代表のOBはいないが、将来性豊かな新人トップリーガーとして、東芝PRの金寛泰（きむ・がんて）、NTTドコモCTBの金勇輝（きむ・よんひ）らがいる。

　「強豪校」の名前維持に役立つのは、個人的なライバル意識だ。
　府内の若手監督、東海大仰星・湯浅大智、常翔啓光・川村圭希、関西大北陽・梶村真也は1981年生まれの同級生である。湯浅は2013年の93回大会で全国優勝を果たした。
「実績は湯浅が一番持っていますが、彼を含めて同期には負けたくない、勝ちたい、という思いが強いです」

　自他からかかる重圧は家族との時間によって解消される。結婚は3年前。昨年3月には長男が生まれる。
「子どもの顔を見たら癒されます。まだしゃべれなくて、声を発するだけですが、少しもじっとしていません。やんちゃです」
　元々細い目はさらに細まった。

　8月5日から15日まで長野・菅平であった夏合宿は8戦5勝3敗だった。敗戦はいずれも関東のチーム。茗溪学園には17-19、桐蔭学園には7-26、國學院栃木にはトライ数2-8だった。
　夏の練習試合を勝ち越したことでチーム状態は上向いている。

　9月から始まる全国大会予選は、順調に行けば選抜決勝で東海大仰星に0-21で敗れた大阪桐蔭と対戦する。
「常翔学園も含めて、選抜のベスト4には大阪が3つ入りました。それを基準に考えれば、大阪代表になる、ということは全国優勝をする力を持っていないといけない、ということ。チャレンジあるのみです」
　高校日本代表候補5人を擁する大阪桐蔭は大きな壁だ。どう風穴を開けるのか。新人監督の力量に注目が集まる秋になる。