女子 2015.06.22

15歳の優芽。17歳の優衣。OG二人のMVPに杉並ラグビースクール沸く。

15歳の優芽。17歳の優衣。OG二人のMVPに杉並ラグビースクール沸く。

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チームは準優勝も大会MVPに選ばれたRugirl-7平野優芽。
(撮影/松本かおり)

 少女の名前が読み上げられると、スタンドから大きな拍手が起こった。
 6月20日、21日に開催された太陽生命ウィメンズセブンズ2015 東京大会でMVPが発表されたときだった。この大会でもっとも価値ある選手と評価されたのは、Rugirl-7の平野優芽(ひらの・ゆめ)だった。
 この大会の決勝で優勝したのは東京フェニックスRC。カップ決勝でRugirl-7を19-14で破った。敗れた側からMVPが選ばれたのは、それほど鮮烈な印象を残したからだ。あどけない顔。線も細い。しかし低く、激しくプレーが出来る。ステップが鋭い。15歳の可能性が選考した人たちの心をつかんだ。

 準決勝以降の働きを見ただけでも、平野の動きは素晴らしかった。昨シーズンから今年4月の大会まで、全4大会に優勝してきたARUKAS QUEEN KUMAGAYAを撃破した試合では2トライをマーク。1つめは、味方が敵陣深くまで持ち込んでできたブレイクダウンから判断よくボールを持ち出す。順目側、わずかなスペースを見つけるとインゴールに飛び込んだ。2つめのトライも、相手より先にチャンスを読み取り、反応して得たものだった。
 敗れた決勝でも追撃のトライを奪ったが、観戦者を惹きつけたのはタックルだ。40?以上重く、大きなNZ選手にもひるまずタックルに入る。足首に刺さると、パワーあふれる相手も止まった。
「怖くないことはないですよ。でも、ああしないと止められないので」
 笑顔で言った。小学1年生時からラクビースクールでプレーしてきたから、頭と体の反応がいい。

 東京・中野にある東亜学園高校にこの春入学した。ラグビーは小学校1年生のときから杉並少年ラグビースクール(RS)で始めた。祖父と父がラグビーマンだったから自然だった。
 中学2年の途中から杉並RSでの活動と同時にRugirl-7ジュニアにも加わり、若き才能を育てる女子セブンズアカデミー(日本ラグビー協会)のメンバーに選ばれ、力を蓄えていった。高校入学後はラグビーに役立つために、と『重量挙げ部』に入部。週3回のRugirl-7での活動を優先しつつ、体作りにも励んでいる。

 この日は杉並RSでコーチを務める父・幸人さんをはじめ、同スクールの指導者たちがクラブの横断幕を壁に貼ってプレーを見つめた。そのなかにいたスクールの宮島郁夫校長が言った。「優芽ちゃんは、ほんといつもいいところにいるんだよね。ボールが出てくるところが直感的にわかるんだよね」。他にもOGが何人か活躍している姿を見て幸せそうだった。
 平野はこの日の決勝戦、コンタクトプレー後に鼻血を出し、一時は出血退場でピッチ外に出た。しかし治療を終えるとすぐに戻り、その後も体を張り続ける気持ちの強さを見せた。父・幸人さんは「昔から鼻血を出すことはあったけど…やっぱり心配」と言いながら、逞しく育つ娘の姿が頼もしかった。
「隣りにニュージーランドのプレーヤーもいたので、安心し、思い切りプレーできたんじゃないでしょうか」

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左から小西想羅(Rugirl-7)、塩崎優衣(東京フェニックスRC)、
宮島郁夫校長と平野優芽(Rugirl-7)

 杉並RSのコーチ陣が喜んだのは、平野の活躍だけが理由ではなかった。他にも杉並OGが活躍した。同じRugirl-7では小西想羅(こにし・そら/國學院栃木高校1年)が力強いプレーを見せた。ファイナルを戦った相手、優勝した東京フェニックスRCには、平野の2学年上で杉並RS出身の17歳、塩崎優衣(しおざき・ゆい)もいたからだ。塩崎は決勝戦後、同チームのゲームキャプテンを務めた横尾千里から「チームのMVPです」と紹介された。こちらも平野同様に接点で逃げず、トライも決めた。相手外国人選手の突進を受け止め、ボールを奪い返すシーンもあり、初めて大人の中でプレーしたとは思えぬ活躍だった。

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左手首に「One Team, One Heart」の文字。普段はおっとり塩崎優衣。
(撮影/松本かおり)

 秩父宮ラグビー場の目の前、青山高校のラグビー部に所属している。父・淳さんの影響を受け、小学校2年生の時に岡山ラグビースクールで楕円球を追い始め、その後転勤で東京へ。小学校5年生時からは杉並RSでプレーした。東京フェニックスには昨年の秋から加わっている。
 この日は、決意を持ってピッチに立った。
「初日の名古屋(レディース)戦で抜かれた場面があったので、きょうはどうやってもいいから止める。そう思ってプレーしました」
 その思いが体を張ったプレーに直結した。ボールタッチも少なくなかった。
 四宮洋平監督は言った。
「僕は(塩崎が)これぐらいやることは分かっていたので、まったく驚くことはありませんでした。期待通りです」
「高校生(の女子)相手とはまったく違うプレッシャーを感じました」とは言うけれど、その中で高い対応力を見せた。

 15歳の大会MVPと、チャンピオンチームの中で選ばれた17歳のMVP。決勝戦でもふたりのマッチアップは何度かあったが、平野は「(決勝では塩崎と)直接ぶつかる場面はなかったと思います」。どれだけ必死だったかが伝わってくる。塩崎は、「優芽が相手にいるのは嫌だった。だってすばしっこいんですもん」と笑った。
 ふたりとも日本代表になりたい。東京オリンピックに出たい。ふたたび同じチームで戦い、もっと大きな栄光を手にしたい。

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激しくプレーする平野優芽(左)と塩崎優衣。(撮影/松本かおり)

 

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